飲み物は「ぬるい方が吸収率が良い」という風説
「クーリング」とは、その名の通り体を冷やすことで、深部体温の上昇を直接的に抑えることを目的とします。具体的には、日陰やクーラーのきいた部屋で休む、冷たいタオルで首元や脇の下を冷やすなどがあります。また、水分補給をする際に飲み物が冷たければ、水分補給だけでなくクーリングの役割も果たすことができます。
飲み物は「ぬるい方が吸収されやすい」と認識されていることが多いですが、飲料の温度と吸収効率に関する研究として、いろいろな温度(5℃、15℃、25℃、35℃)の飲料を摂取してから15分後の胃内残留量を調べたものがあります。その結果は、25℃や35℃の飲料に比べて5℃や15℃の冷たい飲料の方が胃内残留量が少なかったというものでした。よって、特に暑い時期ではクーリング効果も兼ねて5~15℃の冷たい飲料が推奨されます。ちなみに5℃は氷が溶けた直後、15℃は冷蔵庫から出した直後くらいの冷たさになります。
熱中症を予防するための水分補給の主な目的は、①汗で失われる水分とミネラルの補給、②深部体温を下げる、の2つになります。②の「深部体温を下げる」ことについては先ほど説明したので、①について詳しく書きたいと思います。
熱中症には2種類ある。認知症高齢者が孕む危険性
熱中症には「労作性熱中症」と「古典的熱中症」の2種類があります。労作性熱中症は若年から中年の人がスポーツ中や屋外での仕事中に発症するもので、急激に発症しますが、基礎疾患を持たない人が多いので予後良好とされます。
一方、古典的熱中症は高齢者が屋内で発症するもので、数日以上かけて徐々に悪化するとされます。基礎疾患を持つ高齢者が多いため、命に関わるような重症例が多いとされます。
古典的熱中症では、エアコンを好まない一人暮らしの高齢者が、高温の室内で徐々に体調を崩し、最終的に熱中症に至る、というのが典型例かと思います。
特に認知症のある高齢者では、暑さに対する感覚が低下しており、真夏にも関わらずエアコンをつけようとしない場合が少なくありません。私も訪問診療で患者さんの自宅を訪れると、とんでもない高温の中で平然と生活しており、とても心配になることがあります。このような場合では、熱中症を予防するには水分補給というよりも、まずはエアコンを入れて適切な室温を維持することが第一になります。
一方、大半の人がイメージする熱中症は「労作性熱中症」になります。こちらは屋内外問わず高温・多湿の環境で労働や運動をすることで体温が上昇して発症します。ですので、予防としては「体温を上げない・下げる」ことが重要になります。また、発汗により失われる水分を補給することは極めて重要になります。