●岸田首相は難局突破のため内閣改造・党役員人事を早期に内定、支持率低下の影響との声も。
●全19閣僚のうち、14名を入れ替えて初入閣は9名に、岸田首相の各派閥への配慮がうかがえる。
●党役員も派閥に配慮、金融財政政策の基本スタンスは不変とみられ株式市場には中立の材料。
岸田首相は難局突破のため内閣改造・党役員人事を早期に内定、支持率低下の影響との声も
岸田文雄首相(自民党総裁)は、本日8月10日に実施する内閣改造・党役員人事の顔ぶれを固めました。一連の人事は当初、9月上旬に行う方向で調整が進められていましたが、新型コロナウイルスの感染再拡大や台湾情勢の緊迫化などを受け、岸田首相は9日の記者会見で「戦後最大級の難局突破のために政府・与党の結束がこれまで以上に重要」と、早期実施に踏み切る理由を述べました。
ただ、最近の世論調査では、岸田内閣の支持率が低下傾向にあることから、人事刷新によって局面を打開する狙いもあるとの声も聞かれます。岸田首相は8月10日午前に党臨時総務会で役員を決め、午後に内閣改造を行う予定です。なお、内閣と党役員に内定したメンバーはすでに報じられているため、以下、岸田首相が党内の派閥に、どのような配慮を示したかを確認してみます。
全19閣僚のうち、14名を入れ替えて初入閣は9名に、岸田首相の各派閥への配慮がうかがえる
全19閣僚のうち、林芳正外相(岸田派)、鈴木俊一財務相(麻生派)、斉藤鉄夫国土交通相(公明党)、松野博一官房長官(安倍派)、山際大志郎経済財政・再生相(麻生派)の5名は留任となります(図表1)。
残り14ポストのうち、厚生労働相には加藤勝信氏(茂木派)、経済産業相に西村康稔氏(安倍派)、防衛大臣に浜田靖一氏(無派閥)、デジタル相に河野太郎氏(麻生派)、経済安全保障相に高市早苗氏(無派閥)が内定しています。
この5名は閣僚経験者ですが、後の9名は初入閣となります。主な職名と内定者名は、総務相には寺田稔氏(岸田派)、法務相に葉梨康弘氏(岸田派)、文部科学相に永岡桂子氏(麻生派)、農林水産相に野村哲郎氏(茂木派)、環境相に西村明宏氏(安倍派)などです。この結果、19の閣僚ポストのうち、安倍派4名、茂木派3名、麻生派4名、岸田派3名、二階派2名、無派閥2名、公明党1名となり、岸田首相の各派閥への配慮がうかがえます。
党役員も派閥に配慮、金融財政政策の基本スタンスは不変とみられ株式市場には中立の材料
次に、党役員人事に目を向けると、副総裁は麻生太郎副総裁を再任、党四役である幹事長は茂木敏充氏(茂木派)を再任し、総務会長には遠藤利明選対委員長(無派閥)、政調会長に萩生田光一経済産業相(安倍派)、選対委員長に森山裕総務会長代行(森山派)を起用する方針です(図表2)。
7名の森山派からの入閣はありませんでしたが、岸田首相は二階俊博元幹事長や菅義偉前首相に近いとされる森山氏を、選対委員長に抜てきしました。
以上より、岸田首相は党内の派閥に十分配慮し、政権の基盤強化を目指すものと推測されます。今回の内閣改造・党役員人事が株式市場に与える影響を考えた場合、特段、「岸田カラー」が色濃く出た内容ではなく、当面は金融緩和と財政拡張の方針は維持される見通しであることから、材料としては中立と思われます。市場では引き続き、年内公表予定の経済対策第2弾や資産所得倍増プランの中身に注目が集まっています。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『岸田首相の内閣改造と自民党役員人事について【ストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト