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連載知らない自分に出会う精神分析の世界【第17回】

就活で「どこに応募すればいいか分からない」…“自分の意見を持てない”本当の理由【精神科医が解説】

精神分析

就活で「どこに応募すればいいか分からない」…“自分の意見を持てない”本当の理由【精神科医が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

自分でも意識することのできない心の奥底、すなわち「無意識」を探っていくと、過去のつらい記憶や体験から抑え込んでしまっていた自分の本来の感情が見えてきます。多くの人が経験する感情の奥には、どのような真実が隠されていたのでしょうか。精神科医・庄司剛氏が解説します。※本稿で紹介するケースは、個人が特定されないように大幅に変更したり、何人かのエピソードを組み合わせたりしています。

「不安」が問題になっているケースの精神分析

不安は「不快」な感情の一つですが、生きていくためには必要不可欠ですし、生物としての人間にもともと備わった本能にも関わる重要な感情です。しかし頭ではそんなに心配する必要がないと分かっているのに不安な気持ちが止められなかったり、無意識的な不安に突き動かされて余計な行動をしてしまったりと、なかなか厄介なことにもつながることがあります。不安は誰でも避けたいものですが、避ければ避けるほどその不安は強くなるともいわれており、その不安に向き合い深く理解し、不安に振り回されない生き方を選択していくことが必要な場合もあります。

【CASE】人の意見に左右されやすい

高校も大学も親に勧められるがまま決めてきたXさん。就活が難航し…

日本には人の心情を推し量る「忖度」という言葉があります。これは自分に自覚があって行っていることですが、なかには無意識にやっていることもあります。

 

Xさん(仮名)は大学3年生の女性で就職活動を始めたところでしたが、いくつかの面接に落ち、気分が落ち込んでこの先どうやって生きていけばいいのかと不安が募って受診に来ました。

 

エントリーシートに記入しようとすると動悸やめまいがしてきて息が苦しくなります。どこに応募すればいいのかも分からなくなったそうです。しかし家族には相談したくありませんでした。母親は心配性で、相談したら母親のほうがパニックになりぐずぐずしていることを叱られることは目に見えていたからです。思えばXさんは昔から自分のことを自分で決めたことがありませんでした。高校も大学も親の勧める通りに決めてきたのです。

なぜXさんは「自分で決められない」のか?

■兄と親の喧嘩を見て、ビクビクしながら育った

Xさんには兄が1人いて最初は母の言う通りにする聞き分けの良い子どもでしたが、思春期前ごろから反抗するようになり、家の中は母と兄の喧嘩が絶えませんでした。4歳下のXさんはそれが怖くていつもビクビクしており、母親の意見にはいっさい異を唱えず、言われた通りに従ってきたのです。

 

■明らかに相手が間違っている場合でも言い出せない

また家の外でも似たようなエピソードがありました。Xさんが中学1年生のときのことです。2学期の最初の美術の時間に、夏休みの思い出を絵に描くという課題が出され、Xさんの席の隣の男子がキレイな虹を2つ描いたそうです。彼は2つも虹が出るのは珍しいので印象に残って描いたのですが、それを見た美術の先生が「2つも同時に虹が出るのは現実的でない」と、まるで彼がウソを描いているかのような言い方をしたのです。そのとき、彼は先生に信じてもらえないことに、悔しそうな顔をしていたそうです。

 

実はXさんも以前、虹が2つ出ているのを見たことがあったので彼がウソをついていないことを知っていました。けれども、先生がウソだと決めつけたような言い方をしたもので、「私も見ました」とは言い出せなかったのです。そのことをずっと後悔していたといいます。

 

■幼稚園時代、大好きなピンク色でゾウを描いたらバカにされてしまった

またこの話はより以前の似たようなエピソードと関わりがあることが分かりました。それはXさんが幼稚園のころに遡ります。

 

Xさんはピンク色が大好きで、服はもちろん持ち物も全部ピンクを選んでいました。そんなある日、幼稚園でお絵描きの時間にピンク色のゾウを描いたのです。彼女は、好きなピンク色でゾウの親子を描けばかわいいと思ったのですが、それを見た友達は「ピンクのゾウなんていないよ」「ウソを描いちゃいけないんだ」などと言ってバカにしたのです。

否定された経験が、自分で決めることへの恐れを招いた

このようにある1つの記憶のエピソードを話していると、似たようなもっと昔の記憶が関連されて思い出されることは多くあります。それらの複数の記憶には一貫したテーマが見られ、その人の葛藤などが象徴的に盛り込まれているのです。

 

ちょっと聞くと今悩んでいることとは関係のないように聞こえ、本人もあまり意味のあることと考えていない記憶のエピソードなのですが、無意識的には多くの情報が隠されている、そういった記憶をフロイトは隠蔽記憶(スクリーンメモリー)と呼んでいます。

 

こういった情報はとても有用なので、今悩んでいる問題に関連することだけでなく、頭に浮かぶ連想をなんでも思いつくままに話してもらうようにしています。患者さんが「関係ないですね」とか「脱線しました」というような話が意味をもつことが多いので、自由に話してもらいながら、そういう避けて通ろうとするところは、逆に促して話してもらったりすることもあります。

 

一見関係ないような先ほどのエピソードからも、Xさんは自分の意見や気持ちを素直に出すと否定されると体験してきたということが分かります。これはまさしく自分で決めるということへの無意識的な強い恐れと関連があると思われました。知らず知らずに自分の気持ちを抑え、人に合わせてしまうことにつながっていたのです。

 

 

庄司剛

北参道こころの診療所 院長

 

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    北参道こころの診療所 院長 

    1999年に筑波大学医学専門学群卒業後、東京大学医学部附属病院心療内科、長谷川病院精神科を経て2008年~2013年までロンドン、タビストッククリニックに留学。

    帰国後、心の杜・新宿クリニックに在籍し、2021年より医療法人イプシロン北参道こころの診療所に勤務。

    <所属学会>
    日本精神分析学会
    日本精神分析的精神医学会
    日本心身医学会
    日本精神分析協会訓練生

    <資格>
    精神保健指定医
    BPC(British Psychoanalytic Council) Psychodynamic Psychotherapist
    TSP(The Tavistock Society of Psychotherapist) メンバー

    著者紹介

    連載知らない自分に出会う精神分析の世界

    ※本連載は、庄司剛氏の著書『知らない自分に出会う 精神分析の世界』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

    知らない自分に出会う 精神分析の世界

    知らない自分に出会う 精神分析の世界

    庄司 剛

    幻冬舎メディアコンサルティング

    自分でもなぜか理解できない発言や行動の原因は、過去の記憶や体験によって抑え込まれた自分の本来の感情が潜む「無意識的な領域」にあった! 憂うつ、怒り、不安、落ち込み…。理由の分からない心の動きを精神科医が考察。…

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