兄「複式、簿記……」
黒エルフ「複式簿記とは、ひとことで言えば『借方と貸方を並べて書くこと』よ。おこづかい帳のように1列に入出金を記載するのを『単式簿記』と呼ぶのに対して、2列に並べるから『複式』なの」
カキカキ……
黒エルフ「たとえば肉が売れたときは、こんな感じね。複式簿記でとくに重要なのは、『借方と貸方の金額を一致させる』ことよ。これは絶対に犯すことのできない鉄の掟よ」
女騎士「ダンジョンに潜るときは回復手段を用意しておくのが冒険者の掟だ。それと同じだな」
兄「掟を破るとどうなるの?」
女騎士・黒エルフ「「死ぬ」」
妹「そんなぁ」
カキカキ……
黒エルフ「複式簿記をもう少し詳しく説明すると、BSとPLを同時に記載する方法だと言えるわ。たとえば肉が売れたときの仕訳を見て? この仕訳の借方は『BSに現金が増えたこと』を、貸方は『PLの売上が増えたこと』を表しているの」
兄「それじゃ、肉を仕入れたときは?」
黒エルフ「こういう仕訳になるわ。BSの買掛金とPLの仕入が同時に増えたことを、この1行で表現しているわけ」
妹「む、難しいです…」
女騎士「なるほどわからん」
黒エルフ「あんたは分かれよ簿記2級」
カキカキ……
黒エルフ「最後に、月末に買掛金を支払ったときの仕訳を教えておくわ」
黒エルフ「複式簿記では、金額の増減をプラス・マイナスではなく、仕訳の左右で表現するの。たとえば現金なら、増えたときは借方、減ったときは貸方に書く。買掛金はその逆ね。……つまり、この仕訳は、BSの買掛金と現金を同時に減らす──相殺することを意味しているわ」
女騎士「分かりやすく言えば、つまり光魔法と闇魔法を同時に発動させるようなものだな!」
黒エルフ「分かりにくいわ」
カキカキ……
黒エルフ「この方法で書いていけば、こんな感じの帳簿ができあがるはずよ。日々の仕訳を日記のようにつけた帳簿だから『仕訳日記帳』と呼ぶわ。『日記帳』と『仕訳帳』を別々につける方法もあるけれど……ここでは1つにまとめた帳簿を使うわね」
妹「この方法で帳簿をつけるだけで、本当にお店の売上が伸びるんですか?」
黒エルフ「いいえ。帳簿をつけるだけではダメね」
兄「じゃあ、どうすれば──」
黒エルフ「重要なのは、正しい数字を把握することよ。きちんと帳簿をつければ、正しい数字が分かる。数字は、正しい答えを教えてくれる」
女騎士「……」
黒エルフ「正しい数字が分からなければ、当てずっぽうで商売をするしかない。絶対に失敗するわ」
兄「なるほど…」
妹「私、頑張ります!」
黒エルフ「力を貸すわ」