女騎士「……」
黒エルフ「どうしたの? さっきから黙り込んで」
女騎士「……この店、相当ヤバいのではないか?」
兄「どういうこと?」
女騎士「BSを眺めて気づいたのだ。今、手元にある現金は800Gだ。1日の売上は650Gで、今月は残り26日だから……月末には現金は1万7千700Gに増えているはずだ」
黒エルフ「そうね」
女騎士「だが、さっき話した通り、月末には買掛金が1万6千20Gに膨らむはずだ。銀行への返済5千Gを足すと、月末に返済しなければならない負債は2万Gを超える。……要するに、現金がぜんぜん足りないのだ」
兄「こ、このままだと……」
妹「……私たち、破産しちゃう!?」
兄「た、単価の高い牛肉をたくさん売って、売上を伸ばそう!」
妹「それより、お肉の種類を増やしたら? お客さんが増えるかも!」
女騎士「……もしも破産したら、営業権を手放して借金返済に充てるしかない。そうなったら、この子たちは──」
黒エルフ「何度も言わせないで。あたしが何とかする」
女騎士「だが──!」
黒エルフ「……ねえ、ご主人様。お願いが2つあるんだけど?」
女騎士「ご、ご主人様? 私のことか?」
黒エルフ「あんたはあたしを買ったのよ。だったら、あんたはあたしのご主人様でしょう」
女騎士「理屈ではそうかも知れないが……」
黒エルフ「いいから、あたしのお願いを2つ。聞きなさいよ」
女騎士「う、うむ……」
黒エルフ「お願いの1つ目。月末まで、このお店でこの子たちと一緒に生活させて。つきっきりで経営再建してあげる」
兄「ほ、本当にいいの?」
妹「ありがとうございます!」
黒エルフ「あたしを買ったことを『旦那様』にも隠しておけるし、一石二鳥でしょ?」
女騎士「いいだろう。それで、2つ目は?」
黒エルフ「2つ目のお願いは……もしも肉屋の立て直しに失敗したら、あたしを売って」
女騎士「!?」
黒エルフ「売ったお金を、このお店の借金返済に充ててほしいの。この子たちが破産して路頭に迷うよりマシだわ」
女騎士「悪い冗談はよせ」
黒エルフ「あたしは本気よ」
女騎士「なんだと?」
黒エルフ「ためらうことないでしょ? あたしの身分は奴隷。あなたの財産のひとつ。あなたのBSの借方に書かれた1行の数字にすぎないわ」
女騎士「そんな言い方はやめろ!」
黒エルフ「たしかに、あたしを売ったお金を肉屋の借金返済に充てたら、あんたには損だけど──」
女騎士「そうではない!!」ガタッ
黒エルフ「!?」
女騎士「なぜだ? お前はさぞかし教養高い家柄だと見受ける。どうして奴隷の身に落ちてしまったのだ?」
黒エルフ「……」
女騎士「ダークエルフの暮らす影国で、いったい何があったのだ?」
黒エルフ「……」
女騎士「答えにくい質問なのは分かっている。しかし──」
黒エルフ「いいわ、教えてあげる」
女騎士「!」
黒エルフ「だけど、それは肉屋の再建に成功してからよ。あんたはお人好しすぎるもの。あたしについて知りすぎてしまったら、失敗したときに売りづらいでしょ?」
兄妹「「……」」
女騎士「絶対、成功できるのだな?」
黒エルフ「商売に絶対はない。でも、全力は尽くす」
女騎士「……成功を祈ろう」