ノベル版『女騎士、経理になる。』~第1章その⑧

原作:Rootport
イラスト:こちも
提供:デンシバーズ
ノベル版『女騎士、経理になる。』~第1章その⑧

幻冬舎コミックス運営のWEBマンガ雑誌「デンシバーズ」と幻冬舎ゴールドオンラインによる特別コラボ企画。デンシバーズの好評連載『女騎士、経理になる。』の原作小説で、2016年6月24日に発売された単行本『女騎士、経理になる。①鋳造された自由』のプロローグと第1章、第2章、第3章を無料公開します。今回は第1章「フライド・コカトリス」⑧です。

女騎士「……」
黒エルフ「どうしたの? さっきから黙り込んで」

 

女騎士「……この店、相当ヤバいのではないか?」
兄「どういうこと?」

 

女騎士「BSを眺めて気づいたのだ。今、手元にある現金は800Gだ。1日の売上は650Gで、今月は残り26日だから……月末には現金は1万7千700Gに増えているはずだ」

 

 

黒エルフ「そうね」

 

女騎士「だが、さっき話した通り、月末には買掛金が1万6千20Gに膨らむはずだ。銀行への返済5千Gを足すと、月末に返済しなければならない負債は2万Gを超える。……要するに、現金がぜんぜん足りないのだ」

 

兄「こ、このままだと……」
妹「……私たち、破産しちゃう!?」

 

兄「た、単価の高い牛肉をたくさん売って、売上を伸ばそう!」
妹「それより、お肉の種類を増やしたら? お客さんが増えるかも!」

 

女騎士「……もしも破産したら、営業権を手放して借金返済に充てるしかない。そうなったら、この子たちは──」

 

黒エルフ「何度も言わせないで。あたしが何とかする」
女騎士「だが──!」

 

黒エルフ「……ねえ、ご主人様。お願いが2つあるんだけど?」
女騎士「ご、ご主人様? 私のことか?」

 

黒エルフ「あんたはあたしを買ったのよ。だったら、あんたはあたしのご主人様でしょう」

女騎士「理屈ではそうかも知れないが……」

 

黒エルフ「いいから、あたしのお願いを2つ。聞きなさいよ」
女騎士「う、うむ……」

 

黒エルフ「お願いの1つ目。月末まで、このお店でこの子たちと一緒に生活させて。つきっきりで経営再建してあげる」

 

兄「ほ、本当にいいの?」
妹「ありがとうございます!」

 

黒エルフ「あたしを買ったことを『旦那様』にも隠しておけるし、一石二鳥でしょ?」
女騎士「いいだろう。それで、2つ目は?」

 

黒エルフ「2つ目のお願いは……もしも肉屋の立て直しに失敗したら、あたしを売って」
女騎士「!?」

 

黒エルフ「売ったお金を、このお店の借金返済に充ててほしいの。この子たちが破産して路頭に迷うよりマシだわ」

 

女騎士「悪い冗談はよせ」

 

黒エルフ「あたしは本気よ」

女騎士「なんだと?」

 

黒エルフ「ためらうことないでしょ? あたしの身分は奴隷。あなたの財産のひとつ。あなたのBSの借方に書かれた1行の数字にすぎないわ」

 

女騎士「そんな言い方はやめろ!」

 

黒エルフ「たしかに、あたしを売ったお金を肉屋の借金返済に充てたら、あんたには損だけど──」

 

女騎士「そうではない!!」ガタッ
黒エルフ「!?」

 

女騎士「なぜだ? お前はさぞかし教養高い家柄だと見受ける。どうして奴隷の身に落ちてしまったのだ?」

 

黒エルフ「……」
女騎士「ダークエルフの暮らす影国で、いったい何があったのだ?」

 

黒エルフ「……」
女騎士「答えにくい質問なのは分かっている。しかし──」

 

黒エルフ「いいわ、教えてあげる」
女騎士「!」

 

黒エルフ「だけど、それは肉屋の再建に成功してからよ。あんたはお人好しすぎるもの。あたしについて知りすぎてしまったら、失敗したときに売りづらいでしょ?」

 

兄妹「「……」」
女騎士「絶対、成功できるのだな?」

 

黒エルフ「商売に絶対はない。でも、全力は尽くす」
女騎士「……成功を祈ろう」

女騎士、経理になる。 ①鋳造された自由

女騎士、経理になる。 ①鋳造された自由

原作:Rootport,イラスト:こちも

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