(画像はイメージです/PIXTA)

4月23日、北海道・知床沖にて発生したあまりにも痛ましい観光船沈没事故。運営会社・知床遊覧船や運航管理者を務める社長への非難も集まりますが、法的に罪に問われることはあるのでしょうか。弁護士・齋藤健博氏が解説します。

知床観光船沈没事故…どのような罪に問われるか

4月23日、北海道・知床半島沖で起きた観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」沈没事故。発生から1ヵ月以上が経過し、引き揚げ作業が完了しました。

 

運営会社である知床遊覧船に対しては、旅客船事業の許可が取り消される方針であることが明らかになっていますが、そのほかどのような処分が下されうるのでしょうか。

 

「業務上過失致死罪」と「業務上過失往来危険罪」

 

第1管区海上保安本部などは、現在のところ業務上過失致死罪業務上過失往来危険罪の被疑事実としているようです。

 

業務上過失致死罪とは、反復継続して行う業務を遂行するにあたり、「結果の発生を具体的に予見できる状況」において、回避することができなかったのかどうかが問題になる犯罪類型です。

 

過失往来危険罪は、「往来の安全を害する恐れのある状態」を作出したかどうかが問題となります。多くのケースでは汽車や電車の事故で争われる犯罪類型です。というのも、観光船・遊覧船の沈没事故というのは裁判例が多くは存在しません。

 

とはいえ、漁船の底約3分の1を厳寒の千島列島「ウルップ島」海岸の砂利原に乗り上げ座礁させたうえで、バルブを開放して機関室内に19.4トンの海水を取り入れてしまい、離礁を不可能にした事件が存在します。これについては、航行能力を喪失させる行為が破壊にあたると最高裁で決定されました。

「社長は逮捕されない可能性がある」のか?

しかし「安全運航に対する期待を裏切った点」よりも、「人の生命を多く奪ってしまったことに対する責任の成否」のほうが、関心としては強いのではないでしょうか。

 

知床遊覧船は競合他社よりも早期に運航を開始していた事実から、安全に対する意識は希薄であったといわざるをえないのではないかと指摘されています。実際に事故当日、斜里町には強風注意報・波浪注意報が発令されていました。

 

争点になるのは、知覧遊覧船を運営する法人の安全管理体制や、当日の船舶の状況となるでしょう。

 

自動車事故や鉄道事故ではよく議論をされることがありますが、船舶事故において、乗客が死亡してしまい誰も当日の状況について把握する人がいない状態となっては、すべてを明らかにすることが難しくなります。その立証はどうするのかが今後問題となるでしょう。

 

さて、この事件では、運航管理者を務める社長の以前からの行動や言動にも「管理がずさんすぎる」「あまりにも無責任だ」といった批判が多く集まっています。

 

とはいえ、社長本人は「逮捕はない」と語ったとされ、「社長は逮捕されない可能性がある」という専門家の意見もよく聞かれます。業務上過失致死罪は、この場合ではまず船長に適用されるものであるからです。

 

社長の管理・運航体制がしっかりしていた、と明らかとなった場合には、刑事責任の追及は困難になるおそれがあります。

 

現時点では、逮捕の有無について明言するのは難しいですが、引き揚げ作業の完了に伴い、調査が前進することを祈るばかりです。

 

 

齋藤 健博

銀座さいとう法律事務所 弁護士

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