娘の心に深く食い込み、人格さえ蝕む母の“毒”。 その呪縛から脱し、人生を取り戻すための遥かなる道のりとは。 本記事では、埼玉工業大学心理学科教授の袰岩秀章氏が、実際のカウンセリング事例をもとに「心の解毒」とセルフケアのメソッドを紹介する。
「娘が可愛くて仕方ない」と言ってはいるが…臨床心理士が絶句「子どもを猫可愛がりする毒親」の本音 (※写真はイメージです/PIXTA)

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娘を「自分の思い通り」にしつける毒親たち

娘を憎む毒親がいる一方で、娘を可愛がる毒親もいる。可愛がっているのに子どもを毒してるとはどういうことだろうか。過保護だとでもいうのだろうか。

 

自分の思い通りにしつけるということにしても、一概に悪いことのようには聞こえない。

 

自分の好きなように可愛がるということは、確かに一種の支配である。またしつけも内容や方向性によっては、支配そのものとなるだろう。

 

過保護やしつけなどとはまた違う、娘を可愛がる形で娘を支配し続ける毒親や、娘をことごとく自分の言う通りにさせてきてしまった毒親の言い分を聞いてみよう。

可愛くて仕方ない、わたしの大事なお人形のような娘

可愛くて仕方ない。それが毒親とは?

 

「わたくしは娘が可愛くて仕方ないんです」

 

確かに可愛がっているように見えた、お人形さんのように着飾られて。

 

「この子は生まれたときはあまり肉がついていなくてしなびていたんですが、お乳をあげているうちにぷくぷくとよく育って、頬っぺたなんかコロンと丸く可愛くなって……」

 

だが、娘の今の姿は、見るからに頬はこけてやせ細り、きれいな服を着せられているのがかえって痛々しい限りである。しかし母親はそんなことはおかまいなしにうっとりと娘の可愛かった様子を語り続けるのだった。

 

娘は摂食障害とともに自傷行為があり、万引きでも通報されたことがあるという。

非の打ちどころのない女性に育てたいと思っていたが…

娘を連れて来談した母親は、娘が可愛くて仕方ないという言葉の一方で、お父さんに申し訳ないという言葉を繰り返した。お父さんとは娘の父、すなわち夫のことである。

 

この母親は若くしてお見合いで10歳以上年上の男性と結婚した。すぐに子どもは生まれなかったが、30歳を過ぎてから娘が生まれ、夫婦で溺愛したようだ。

 

しかし夫は高齢であることから、最初から娘というよりは孫を可愛がるような態度であり、母親がこの子のしつけから教育方針からすべてを担っていた。夫にとっては夫人、

 

すなわちこの母親が、娘のようであったのかもしれない。実際夫は2度面接に訪れたが、夫人に付き添われているというよりは娘に付き添われた父親のように見えた。

 

母親はそのような夫に忠実な妻であり、娘が生まれたからには、娘を非の打ちどころのない女性に育てたいと思ったようだが、いかんせん夫婦で可愛がりすぎたと自分でも認めている。早々にスーパーレディはあきらめて、猫可愛がりにこの娘を育てた。その代わり、自分の思い通りに育てようとした。その話を聞くと鬼気迫るものさえ感じられた。