留意点② 2次分配
歳入面では増値税(付加価値税)を中心に累進性の低い間接税が税収の5割、個人所得税が7%という間接税中心の税体系の見直し、2021年全人代常務委が決定した土地使用権への課税(房産税)の試験的実施、その関係で、2011年から上海と重慶で試験的に実施されている課税の扱い、遺産税(相続税)の導入、所得の捕捉など徴税面の改善が課題。
なお、3月に開催された全国人民代表大会(全人代)後、予定していた房産税の2022年試験的実施拡大は、一部試験地の条件がまだ整っていないことを理由に(実際は現状、不動産市況が低迷していることが大きいと思われる)、見送る旨発表された。
2022年3月全人代に向け、全人代委員から、「共同富裕」実現のため、所得課税最低限を引き上げると同時に、最高税率を現行の45%から50〜55%に引き上げるべきとの提案もある(2022年2月20日付央視財経)。歳出面では社会保障など大半の公共サービスが地方政府レベルで提供されており(教育、医療、住宅の各々80%、70%、60%が地方負担)、地方財政悪化を招く他、その行政能力に大きな差がある。
発改委は2022年2月、地方政府に対し、中国の発展レベルはなお先進国より低く、地方政府は「共同富裕」の下で過大なことを行うのではなく、医療、教育、住宅など基本的なサービスを充実させる堅実な取り組みが求められると発言。
房産税に加え、一部大手不動産企業への反独占の観点からの管理強化、安価な政府保障性賃貸住宅の供給増による民間市場の圧迫などで不動産業界が打撃を受ける結果、土地に依存する地方政府歳入にも影響が及ぶ(2021年土地出譲収入は不動産市況軟化を受け、伸びが前年15.9%から3.5%へ鈍化。地方歳入総額に占める割合はなお40%超。『不動産市況の低迷が増幅する中国の「地方債務リスク」』参照)。
保障性賃貸住宅については、不動産企業だけでなく、多くの国有企業や私企業、政府部門が関与している。2022年2月、人民銀行と銀行保険監督管理委員会は保障性住宅関連融資を銀行の不動産融資集中管理の対象外とする通知を発出。また2月中旬までに地方全人代を開いた30省市区の2022年政府工作報告で保障性住宅建設推進が最も頻繁に多く言及された用語の1つになっている。地方財政は歳入歳出両面から圧迫される恐れがある。
他方、不動産市場への打撃が予想されるだけに、2021年9月以降発生した恒大、世茂など一連の不動産企業の債務問題が「共同富裕」推進の足かせになることも考えられる。総じて財政改革には大きな困難が伴う。
留意点③ 3次分配
中央財経委で「高収入層や企業がより多く社会に還元することを奨励」とされた寄付や慈善事業などの「非市場的手段」。自発的なものとされているが、一般に中国では党・政府の言うことは実質的には強制的なものと受け止められ、富裕層や大企業が党・政府の圧力を強く感じることになる。
中央財経委後2週間余の間で、株主向広報文書で「共同富裕」に言及する企業が相次ぎ、その中には中国銀行を始め多くの影響力の大きい中国を代表する大企業が含まれた。ネットサービス企業大手のテンセント、アリババを初め、「共同富裕」への資金提供を表明する企業も相次いだ。
これらに関し、批判的な筋からは「慈善基金への拠出ではなく、カネが企業の帳簿上に残ったままであることから偽の寄付」「党との関係を考慮した政治投機」「中国ではいずれ、慈善基金もみな当局が管理している」「党が巨大私企業からカネをかすめ取る手法であることは明らか」などの批判がある。著名芸能人を含む富裕層や大企業は格差のスケープゴート(替罪羊)にされているとの受け止めもある。
寄付を申し出る億万長者が見られる一方で、当局の監視を逃れるためSNSの利用を止める、絵画購入などによる資金洗浄、オフショアの信託や外国企業への投資、地下非合法金融を利用するなどの方法で米国を中心とする海外に資産を移転する動きが活発化している。「共同富裕」発表後、富裕層が2か月間で46億ドルの資金を海外に移転したとの情報もある※4。
※4 2022年1月海外華字各誌
3次分配はあくまで補助的なもので、貧困層6億人と言われる中で、「共同富裕」実現の主たる手段にはなり得ない。中国内専門家の間でも、「共同富裕」にとって「錦上添花」、つまりすでに美しいものに花を添える程度(なくても差し支えはない)との指摘がある。
留意点④ 曖昧な「高すぎる収入の合理的調整」
中央財経委で「過度に高い収入を合理的に調整する」とされたが、曖昧さを懸念する声が多い。異なる業種間で給与水準がかなり異なるだけでなく、同一業種内でも平均収入に格差がある。明確な指標がないまま「高すぎる収入」が恣意的に解釈され、「合理的な調整」が過度に行われると、市場の自主性・積極性が容易に損なわれることになるとの指摘である。
本連載最終回となる次回は、引き続き「共同富裕」台頭の背景と留意点について詳述するとともに、今後「共同富裕」を進めていく上で紆余曲折が予想される点について分析する。
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