(※写真はイメージです/PIXTA)

新型コロナの感染拡大で、サラリーマンの働き方が大きく変わりました。朝夕の通勤は禁止され、自宅でリモートワークが始まり、1年間が経過した。緊急事態宣言解除により、サラリーマンの多くが出勤することになった。その時、いったい何が起こったのか、精神科医が解説する。

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ある、IT企業に勤務するA君のはなし

この1年、在宅リモートで仕事してきた26歳のA君、緊急事態宣言の解除により、出勤することになった。いざ出勤しようとした朝、頭痛と吐き気がおこった。何とか駅まで行き、予想より混んでいる電車に乗ったとたん、動悸と冷や汗がでて、息苦しく、手足もしびれ、心臓が止まりそうな感覚にもとらわれた。

 

次の駅で降り、近くの総合病院を受診。いろいろ検査が行われたが、症状を説明するが身体的異常は認められないとされ、心療内科の受診を勧められた。検査での異常がないにもかかわらず、身体の不調があるときは、腸の動きや体温調節、睡眠の調節など、身体のほとんどの機能を調節するシステムである自律神経の不調が生じていると考えられる。そしてこの不調は気分や意欲を落ち込ませるうつ状態と連動していることが多いのである。

 

A君は帰宅してその夜はほとんど眠れず、朝になって再び、めまいや吐き気で、出社できなかった。以前は出社できたにもかかわらず、なぜ、これほどつらいのだろうか。しかも、いざ、自宅でパソコンに向かうと漠然と不安な気持ちが広がり、集中できず、簡単な業務でも処理するのにてまどり、この先も仕事ができるようには思えなくなった。うつ状態とは心的エネルギーの低下によって引き起こされる。A君の心的エネルギーはいつの間にか枯渇しかかっていたのである。

 

そもそも動物は不安と脅威を感じた時、逃げるという選択をとれるように設計されているが、人類は定住することで、様々な道具を作り、食料の安定供給を達成し、ほかの動物の支配に成功したが、逃げるという、手段を失った。

 

外敵から守る国家という枠組み、ローンでかさ上げされた快適な住まい。便利だが費用のかかる交通機関。そのために、組織に属さざるを得ず、どこに移動しようと求められる本人確認、こういったもろもろが、快適な生活を保障しながら、逃亡を妨げるように働く。私たちは当面の安心によって、逃げられない不安を麻痺させて暮らしてきた。

 

しかし、コロナは人間の作った飛行機にのり、安心安全のために設けられた様々バリアーを破り、定住により標的にしやすい人類に襲いかかった。人々はコロナからの脅威から逃げられないことを思い知った。しまっておいた逃げられないときに感じる恐怖が、心の底から立ちあがってきたのである。

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※本記事は、最先端の「自分磨き」を提供するウェルネスメディア『KARADAs』掲載の記事を転載したものです。

シン・サラリーマンの心療内科

シン・サラリーマンの心療内科

遠山 高史

プレジデント社

コロナは事実上、全世界の人々を人質にとった。人は逃げるに逃げられない。この不安な状況は、ある種の精神病に陥った人々が感じる不安と同質のものである――。 生命の危機、孤立と断絶、経済破綻、そして……。病院に列をな…