本記事では、桃山学院大学経済学部教授の中村勝之氏が、大学の総数が増える現代日本における、教育改革の問題点について解説します。
「単なる授業のメモ書き」で終わらせない…大学教員が教える「授業ノートの取り方」 (※写真はイメージです/PIXTA)

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講義・テストなど、学習には「書く」作業が多いもの

大学教育の現場において「書く」活動を伴う学習活動は昔から行われている。論述式の定期試験や小テスト、レポート、卒業論文がその典型である。最近ではプレゼン資料も含まれるだろう。

 

また、断片的だが昔から各教員が講義終わりに短い感想文などを書かせることも実践されていた。これは今日、ミニッツペーパーやコミュニケーションカード、リフレクションシートなどの名称でよばれるもの。受講対象となる学生・生徒により若干異なるが、私が使用するシートには、

 

・この講義でどんな話をしていたか?

・この講義でどこが印象に残ったか?

・この講義からイメージを膨らませてみると……?

 

の3つを書かせるようにしている。それと同時に、このシートは講義内容のメモを取るスペースを設けている。

 

いわば小レポートと板書ノートを併せ持った機能のある用紙であり、この作成を積極的に行えば、見返すだけで詳しい講義内容とその集約作業を振り返ることができる。それと同時に、講義によってはレポート作成の基礎資料にも活用できるようになっている。

 

以下では、実際のシート作成例を見る中で、文字が学生・生徒のかなりの情報を与えてくれることを指摘したい。

高校1年生が授業中に作成したシートを見てみると…

最初に紹介するのは、私が2016年度にスーパー・グローバル・ハイスクール(以下、SGHと略記)に指定されたある高校のある授業で作成したシートである。

 

用紙はB4、右側に講義の要旨などを書くスペース、左側にメモを書くスペースを配置している。この授業時間は65分で、作成したシートは翌日を期限に提出するようにした。

 

まずAさんのシートを見てみる。

 

[図表1]Aさん(高校1年生)のレスポンスシート

 

さすがに高校に入学して間もない生徒にアダム=スミスの話は難解なのは当然で、特に「今回の講義内容を何かにつなげてみよう」では悪戦苦闘している。

 

それでも、メモに書かれたちょっとしたイラストは私にとって衝撃だったし、メモ自体も講義内容を的確につかんでいる。なお、Aさんは講義期間中のすべてにおいて図表1のような質の高いシートの作成ができていた。

短期間で「ノートの取り方」が大きく変化した背景

次に、同じ授業を受けたBさんのシートを見てみる。

 

[図表2]Bさん(高校1年)のレスポンスシート(a)

 

[図表3]Bさん(高校1年)のレスポンスシート(b)

 

 

このうち(a)は5月時点、(b)はおよそ1か月後の6月時点のものである。

 

両者を比べて一目で分かる大きな違いはメモの取り方である。(a)でもそれなりにメモは取れているが、レイアウトがやや煩雑で講義のストーリーが分かりにくかった。それが(b)になるとマンガのようにコマ割りしてメモを取るようになっている。書かれた文字も(a)(b)を比べると後者の方が若干ていねいに書かれた印象がある。

 

これらは私がアドバイスした訳ではなく、漫画研究部に所属するBさん自身の創意工夫によるものである。これ以降、Bさんは(b)のスタイルでシートの作成を継続させた。

 

このように、書く内容は毎回異なってもその形式を同一にしておけば、作業を続けさせることで学生・生徒の変化を読み取ることができる。

変化はレイアウトやまとめの文章の表現力のみならず…

もちろん、学生・生徒の変化はメモのレイアウトやまとめの文章の表現力ばかりではない。文章構成の基本である漢字や文法の初歩的ミスでも変化を捉えることができる。ある時点でこちらがミスを指摘して次回以降に同じミスを犯さないかどうかを観察することでも、彼らの変化を捉えることができる。

 

実際、この授業を受講した生徒たちにも漢字などの初歩的ミスは見られた。しかし、私が指摘して以降では同じミスを犯す者はいなかった。

 

一般に、SGHに指定される高校はいわゆる進学校が中心である。彼らは基礎学力がそれなりに備わっていると認知されているが、その延長線上に捉えられるまとめる力や、ミスの修正能力、ミスしない注意力もある程度備わっており、それがシート作成に反映されることを表す好例だと言える。

 

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中村 勝之

 

山口県下関市出身。大阪市立大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。桃山学院大学経済学部教授。専門は理論経済学。著書に『大学院へのミクロ経済学講義』(2009年、現代数学社)『〈新装版〉大学院へのマクロ経済学講義』(2021年、現代数学社)『シリーズ「岡山学」13 データで見る岡山』(共著による部分執筆、2016年、吉備人出版)がある。