日本では、トウモロコシやダイズなどの作物は、海外からの輸入に大きく依存しており、その大部分が遺伝子組み換え品種となっています。しかし、日本における遺伝子組換え作物の商業栽培はほとんど行われていません。一体なぜなのでしょうか。雑草学博士の小笠原勝将氏が解説していきます。
なぜ、日本では「遺伝子組換え作物」が普及しないのか【雑草学博士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

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「遺伝子組換え作物」が日本で普及しないのは何故か

日本では、遺伝子組換え作物と不耕起栽培が普及する可能性はほとんどありません。それは何故でしょうか。

 

元をたどれば日本の国土の狭さに行き着きます。

 

日本では、たとえ新潟平野のような稲作地帯であっても、コメだけでなくエダマメも栽培されており、いろんな作物が同じ地域で栽培されているのが普通です。

 

それに引き換え、米国ではダイズ、トウモロコシ、コムギ、ワタがそれぞれ別々の地域で大規模に栽培されています。

 

例えば米国のダイズとトウモロコシの栽培面積はそれぞれ3,400万ヘクタールと3,700万ヘクタールであり、日本の国土面積が3,780万ヘクタールであることを考えると、その広大さが良く理解できます。

 

そして日本の平均経営面積が2.2ヘクタールであるの対して米国、EUおよび豪州の平均経営面積は180ヘクタール、17ヘクタールおよび3,000ヘクタールです。

遺伝子組換え作物は「効率性」を重視した栽培方法

同じ種類の遺伝子組換え作物を大規模に栽培し、畑の上から飛行機で除草剤を撒けば、組換え作物以外の全ての雑草を防除することができますし、たとえ除草剤が圃場の外に揮散しても、同じ作物しか植わってませんから他の作物に対する薬害の心配も要りません。

 

しかし、畑が小さく、なおかつ同じ地域に多品目が栽培されている日本では、遺伝子組換え作物だけに除草剤を散布することは技術的に困難ですし、近接する畑で栽培されている他の作物への薬害も問題になります。

 

このことから遺伝子組換え作物は経営規模の大きな米国やオーストラリアなどに合致した効率性を重視した栽培方法であり、日本で普及しないことがお分かりいただけたのではないでしょうか。

「不耕起栽培技術」は日本の実態に即していない

不耕起栽培技術も日本の実態に全く即していません。前述したようにトウモロコシの後作にダイズを栽培する場合、春に畑の表面を覆っているトウモロコシの残渣を切りながら細い溝を掘って、そこにダイズ種子を播種しなければなりません。この一連の操作が不耕起播種機(No till planter)と呼ばれる機械で行われます。

 

トウモロコシの残渣には太い茎が含まれており、大型のディスクと呼ばれる鉄製の円板でなければ切断できません。したがって不耕起播種機は重くなり、その播種機を牽引するトラクターも大型になります。

 

つまり、不耕起栽培には大型機械が必要になりますが、日本の畑のサイズが小さいために、大型の播種機やトラクターを効率良く稼働させることができません。さらに大型機械は高価な上に、土壌を固結させて畑の排水性を低下させます。不耕起栽培には、メリットよりもむしろデメリットの方が多いくらいです。

 

にもかかわらず、米国やオーストラリアでは不耕起栽培が広範に普及しています。これは裏を返せばそれだけ土壌流亡が深刻だったということになります。

 

環境保全型農業は最新の技術のように思われますが、米国では、太平洋戦争が始まった1940年代からすでに研究が行われていました。さすが世界一の農業国だけのことはありますが、この最新の農業技術が綻びかけています。

 

そしてこの原因を辿ればやはり雑草に行き着きます。雑草対策が洋の東西を問わず、農業の根幹であるということがお分かり頂けたのではないでしょうか。

 

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小笠原 勝


1956年、秋田県生まれ。1978年、宇都宮大学農学部農学科卒業。1987年、民間会社を経て宇都宮大学に奉職。日本芝草学会長、日本雑草学会評議委員等を歴任。現在、宇都宮大学雑草管理教育研究センター教授、博士(農学)。専攻は雑草学。 主な著書「在来野草による緑化ハンドブック」(朝倉書店、共著)「Soil Health and Land Use Management」(Intech、共著)「東日本大震災からの農林水産業と地域社会の復興」(養賢堂、共著)研究論文多数。