日本で格差が広がり続けている一因に、税制の不平等性が挙げられる。働いて得た所得よりも、株式や土地の譲渡など資本所得への優遇度が高いのだ。ここでは日本における「所得再分配政策」の実態と改善策について、前日銀副総裁・岩田規久男氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「高所得者にも10万円給付」という不平等再分配…「マイナンバーと銀行口座」を紐づけると【前日銀副総裁が解説】 ※写真はイメージです/PIXTA

現行税制の「不平等性を緩和する」には…

この問題を回避するためには、総合所得に対して逓減(ていげん)的な資本所得非課税枠(給与所得控除に相当する)を設けることである。

 

この方式により、総合所得のうち、資本所得の比率が一定以上高くなる人ほど税負担率が低下するという、現行税制の不平等性を緩和することができる。この税制では、総合所得も資本所得も少ない人であれば、資本所得税はゼロになる可能性がある。

 

現行の税制では、どんなに総合所得が少なくても、ごくわずかな利子所得に対して、高額利子所得者と同じ20%(特別復興税を除く)が課せられる。

税逃れは「マイナンバー」で防ぐ

利子、配当、土地や株式譲渡益など、資本所得の税率を引き上げると、これらの利益を生み出す資本が海外に流出し、税源自体がなくなるといわれる。

 

資本が海外に流出すると、日本の居住者が海外からの利子等を受け取り、それを日本の銀行の円口座に振り替えても、税務署はその所得を把握できないため、税逃れを許してしまうことになる。

 

こうした租税回避を防ぐためには、マイナンバーカードを活用して、マイナンバーカード番号を銀行口座と紐づけしなければ預金できないような制度改革が必要である。アメリカでは、ソーシャル・セキュリティー・ナンバーを活用して、租税回避を防止している。

 

税や政府からの資金援助を受ける場合には、所得と資産が正確に把握されていることが条件である。

 

政府は、マイナンバー通知はしたものの、マイナンバーカード(顔写真付きであるから身分証明書に使え、ICチップが搭載されているから、さまざまな用途に使用できる)の作成とそのカードを銀行口座と紐づけることを、国民に義務づけることを怠ってきた。

 

2020年の新型コロナウイルス感染症の流行時には、ほとんどの人のマイナンバーカードが銀行口座と紐づけされていなかったため、政府からの給付金を受け取るのに長い時間を要するという問題が発生した。

 

このため、所得にかかわらず、1人10万円が給付された。これは所得が1億円を超えるような人にまで10万円を給付することであり、究極の不平等再分配政策である。政府はこうした事態が発生したことを反省して、行政におけるデジタル化を促進する予定である。