●日銀は予想通り、金融緩和の維持を決定し、展望リポートの物価見通しとリスク判断を上方修正。
●黒田総裁は資源高による物価上昇は一時的とし物価目標の持続的達成は想定されないと発言。
●また利上げ議論も否定し早期緩和修正観測を牽制、ただ今後、大幅な円安なら政策微調整も。
日銀は予想通り、金融緩和の維持を決定し、展望リポートの物価見通しとリスク判断を上方修正
日銀は1月17日、18日に金融政策決定会合を開催し、大方の予想通り、長短金利操作付き量的・質的金融緩和の現状維持を決定しました。また、1月18日には「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」が公表され、政策委員による最新の大勢見通しが示されました(図表1)。注目されていた、消費者物価指数(除く生鮮食品)については、2022年度と2023年度の前年度比伸び率が、上方修正されました。
ただ、上方修正は、事前に予想されていたことや、小幅(2022年度は0.2%ポイント、2023年度は0.1%ポイント)にとどまったことから、市場にとって目新しい材料とはなりませんでした。なお、展望リポートにおける物価見通しは、従来「下振れリスクの方が大きい」とされてきましたが、今回「概ね上下にバランスしている」に変更されました。ただ、これも国内物価の現状に即した変更と思われ、違和感はありません。
黒田総裁は資源高による物価上昇は一時的とし物価目標の持続的達成は想定されないと発言
なお、今回の金融政策決定会合については、ロイター通信が1月14日、関係者の話として、日銀が利上げに関する議論を行っていると報じたこともあり、市場の注目が集まっていました。しかしながら、1月18日に声明文や展望リポートが公表された段階では、この報道に関連する新たな手掛かりはみられなかったため、市場の関心は、同日日本時間午後3時半からの黒田日銀総裁の記者会見に移行しました。
黒田総裁の記者会見における主な発言は図表2の通りです。まず、物価については、資源価格の一時的な上昇によって物価が上昇しても、それに対応して金融を引き締めることは全く考えていないとし、賃金の拡大を伴わない物価の上昇は、一時的なものにとどまるとの見解を示しました。また、2%の物価安定の目標が、持続的に達成される姿は、今のところ全く想定されないと述べました。
また利上げ議論も否定し早期緩和修正観測を牽制、ただ今後、大幅な円安なら政策微調整も
次に金融政策については、利上げを議論していることは全くないとし、物価が2%に向けて着実に上昇している状況にはなく、現在の緩和的な金融政策を変更するとは全く考えていないし、議論もしていないと発言しました。そして、円安については、業種や企業規模、経済主体によって円安の影響が不均一である点には留意が必要だが、今は悪い円安とは考えておらず、考える必要はないとの見解を示しました。
以上より、現段階で日銀が緩和修正に動く公算は極めて小さいと判断されます。なお、日銀内部で将来的な政策の議論が行われていることは当然のことであり、前述の報道は、この点に言及したものと思われます。ただ、それによって早期緩和修正観測が市場に広がらないよう、黒田総裁は今回、しっかり牽制したと考えます。なお、政策の微調整が想定されるとすれば、1つは大幅な円安進行時であり、今後、円相場の動向には注意が必要です。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『黒田日銀総裁の緩和修正観測否定の意図』を参照)。
(2022年1月19日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト