アマゾンが日本に上陸した2015年から2015年にかけて、ヤマト運輸では「宅急便」の取扱個数が急増し、ドライバーたちは過重労働を余儀なくされていた。しかしその後「働き方改革」により改善された労働環境も、ドライバーたちは手放しで歓迎できないようである。その実態を、物流ジャーナリスト・刈屋大輔氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『ルポ トラックドライバー』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「荷物受け入れ拒否」に顧客は怒り心頭…ヤマトが“強気に出た”ワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「働き方改革」ドライバーたちが手放しで喜べないワケ

「総量規制」や「当日配達の停止」「時間帯指定区分の見直し」といった対策のほかにも、仕分けや積み込み作業に従事する補助スタッフの増員や、集荷・配達業務の外注化(協力運送会社への業務委託)拡大などを進めることで、ドライバーの労働時間は従来よりも大幅に短くなった。

 

残業はゼロではないものの、過少に申告することを求められたりすることもなくなったという。

 

「とくに休憩時間の確保を徹底することは口酸っぱく指導されている。昼休み中は、たとえお客さんから連絡があっても、電話に出ないように、と言われている。勤務時間も正確かつ厳密に管理されるようになった」

 

もっとも、ヤマトの「働き方改革」は、松本さんをはじめとするセールスドライバーたちにとって、手放しで喜べることでもなかったようだ。松本さん自身、一連の「働き方改革」によって、残業を含めた勤務時間が減り、その結果年収が15%程度ダウンしてしまったという。

 

途中休憩をとらず、朝から晩まで荷物を抱えて走り回り、休日返上で出勤する。肉体的にも精神的にもハードな毎日だったが、体調を崩して倒れるまでには至らなかった。激務に身体が慣れていた。確かに仕事はたいへんだったが、それに見合うだけの報酬を得ていた実感があり、不満はなかった。

 

子供の教育費など、これから出費が増えていくことを考えると、年収ダウンは家計にとって大きな痛手だ。サービス残業は言語道断だが、「きちんと加算される残業であれば、むしろあったほうが収入面では助かっていたのは事実」と松本さんは本音を漏らす。

 

松本さんの同僚たちの中には、「働き方改革」以降、減収分を補うため、副業を始めるドライバーも少なくない。しかもその副業は、同じ配達の仕事だという。“本業”の勤務日の定時終業後や休日の日中に、いつもと違うユニフォームに身を包んで、街中を走り回っている。

 

実は、宅配便会社をはじめとするトラック運送会社では、ドライバーによる副業を認めていないケースが多い。とりわけドライバーが副業としてドライバー職に就くことを禁じている。