アマゾンが日本に上陸した2015年から2015年にかけて、ヤマト運輸では「宅急便」の取扱個数が急増し、ドライバーたちは過重労働を余儀なくされていた。しかしその後「働き方改革」により改善された労働環境も、ドライバーたちは手放しで歓迎できないようである。その実態を、物流ジャーナリスト・刈屋大輔氏が解説していく。 ※本連載は、書籍『ルポ トラックドライバー』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「荷物受け入れ拒否」に顧客は怒り心頭…ヤマトが“強気に出た”ワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

便利な「当日配達」セールスドライバーにとっては…

こうして顧客からの反感を買いながらも強引に推し進めた「総量規制」は、結果として成功を収めた。当初、ヤマトでは2018年3月期の取扱量を前期比で約8000万個(約4%)減らす方針を打ち出していた。最終的な着地は、前年同期比1.7%減(18億3668万個)と、目標値には届かなかったものの、全体のボリュームは抑制することができた。

 

松本さん(仮名・ヤマト運輸のドライバー)は当時をこう振り返る。

 

「ある通販関連のお客さんに荷物の引受量を制限することを伝えたら、『荷物をたくさん出してくださいと頼まれたから、ヤマトさんにお願いしてきたのに、今度は出すな、運ばないぞ、だなんて、殿様商売にも程がある』と怒り心頭だった。こちらとしても『ごもっとも』と思ったので、返す言葉がなかった」

 

「総量規制」とともに、サービスメニューも見直した。例えば、注文を受けたその日のうちに商品を届ける「当日配達」サービスは一時的に中断することにした。

 

「当日配達」は、購入者による注文キャンセルの回避や商品在庫回転率の向上につながるため、とりわけ通販会社から好評だった。しかし、最前線のセールスドライバーたちにとっては厄介な存在にすぎなかった。

 

通常サービスである「翌日配達」分の荷物と再配達分の荷物の配達に追われる夕方以降の時間帯に、新たに「当日配達」分の荷物の配達が加わり、業務負荷が一気に増すからだ。この「当日配達」を停止したのは、ドライバーたちの長時間労働を是正するのが目的だった。

 

「宅急便」の利便性を象徴するサービスともいえる「配達時間帯指定」にもメスを入れた。

 

従来は時間帯の区分として、「午前中」「12〜14時」「14〜16時」「16〜18時」「18〜20時」「20〜21時」の6区分を用意していたが、このうち「12〜14時」を廃止。さらに、「20〜21時」をなくし、「19〜21時」という区分を新設した。ドライバーの昼休み時間をきちんと確保したり、夜間帯に行う配達業務の負荷を軽減したりするためだった。

 

一連の「働き方改革」によって、現場で働くドライバーたちの労働環境は劇的に改善した。