2020年、物流ジャーナリストの刈屋大輔氏はヤマト運輸のセールスドライバーに取材をおこなった。コロナ禍でのハードな業務は想像に難くないが、ドライバーがより「しんどかった」と語るのは2015~2017年である。アマゾンが台頭した当時について、刈屋氏が解説する。 ※本連載は、書籍『ルポ トラックドライバー』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「アマゾンのロゴを見るだけで…」トラックドライバーの“尋常ではなかった”勤務実態【物流ジャーナリストが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「ロゴを見るだけで…」休日出勤、サービス残業の実態

現有の戦力のみでは到底捌(さば)ききれないほどの大量の荷物が毎日のように営業所に届く。それらを当日中、しかも指定された時間帯に届けなければならない。届け先が不在の場合には、何度も繰り返し訪問する。

 

当日の配達ノルマをこなすため、昼休みなど休憩時間は取らず、さらに夜遅くまで残業して街中を走り回る。常に人手が足りない状態が続き、休日出勤を強いられる日々が続いた。

 

松本さんに限らず、ヤマトの現場で活躍するセールスドライバーたちは、アマゾンとの取引で「宅急便」の取扱個数が急増する裏側で、こうした過重労働を長期間にわたって余儀なくされてきた。

 

「当時の勤務実態は尋常ではなかった。昼夜を問わず配り続けても営業所内やトラック内の荷物が一向に減らない。その原因はアマゾンの荷物だった。あまりにも忙しすぎて、段ボールにプリントされているアマゾンのロゴを見るだけで吐き気をもよおすこともあった」

常態化するサービス残業

そんな過酷な労働環境の中、さらに現場で働くセールスドライバーたちを悩ませたのは所属先上司による“サービス残業”の強要だった。サービス残業とは、従業員に超過勤務時間を実際よりも少なく申告させて残業代をカットするというものだ。

 

会社側は残業代の支払いが少なくて済む。これに対して、従業員側は本来受け取るべき収入が減ってしまう。サービス残業は雇用の継続や将来の昇格人事などを楯にして会社側が従業員に対応を迫る「悪しき慣習」にほかならないが、それが当時、ヤマトの社内では横行していた。

 

「サービス残業は本社や支社など上からの指示だったと聞いている。営業所としてのコスト抑制のノルマを達成したり、セールスドライバーの過重労働の実態を隠したりするための“協力”を求められた。具体的には、タイムカードをおさずに早朝の積み込み作業を行ったり、タイムカードをおしてから夜の退社前の事務作業をこなしたりして、トータルの勤務時間が短くなるよう調整させられた」

 

しかし、こうした会社ぐるみの隠蔽工作は長続きしなかった。一部の従業員が残業代の未払いなどを告発したことで、社内に蔓延(まんえん)するサービス残業の実態が一気に表面化した。