「コロナ以外の疾患による救急患者が減ることはない」
医療機関からすれば、たとえ心不全を疑っていても新型コロナウイルス感染を合併している可能性があるため、通常の心不全治療だけでなく感染対策も講じた上で、治療を行う必要があります。それができない医療機関では、心不全をはじめとする心疾患の急性期治療が思うように行えない状況が発生しました。
感染症指定医療機関をはじめとした一部の医療機関では、感染対策を十分にとった上で、呼吸困難を伴った心不全などの「コロナ感染症の疑似症患者」を診療することができるよう早期に体制を整えましたが、それ以外の医療機関では、かかりつけの患者であっても救急受診を受け入れることができない事例を数多く経験しました。
なかにはPCR検査で感染が否定されてからも疑似症の時点で診療をすることができない医療機関もあり、2021年末の今現在でも、心疾患患者の急性増悪に対して、入院から診断治療までの一連の急性期診療と感染対策を両立して行うことのできる医療機関は、多くはないのではないでしょうか。
医療機関によっては疑似症患者を受け入れない方針の施設もあります。しかし、コロナ禍でもコロナ以外の疾患による救急患者が減ることはありません。弁膜症をはじめとした急性増悪を来す可能性のある心疾患に関しては、感染対策を十分に講じている、かつ手術などの必要な治療を速やかに行うことのできる医療機関が、万が一に備えた定期的な管理をすることが必要なのです。
大橋 浩一
都立墨東病院 循環器内科医