年金制度には大きな世代間格差が存在する。「親が年金をもらえば、子供は親の老後の面倒を見る必要がないから、子供も年金制度から利益を得ている」という主張も存在するが、果たしてそれは正当だろうか。前日銀副総裁・岩田規久男氏が解説する。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
年金受給額の「世代間格差は6000万円」…1965年生まれが損得の“境” ※写真はイメージです/PIXTA

「世代間の助け合い制度」膨れ上がる“子供側”の負担

このような「年金の世代間格差」が生まれるのは、年金制度が「修正賦課方式」をとっているためである。これは、年金基金からの若干の支払いを除くと、現役世代が支払った年金保険料で高齢世代に年金を支払うという制度で、「世代間の助け合い制度」と呼ばれてきた。

 

「賦課方式の年金」は、人口が増加し、成長率が高い経済であれば持続可能であるが、少子化が進み、成長率の低い経済では、老後にある程度安心して暮らせる年金を保障することはできない。ここにも、少子化と低成長をもたらした長期デフレの弊害が見られるのである。

 

ところが、「親が年金をもらえば、子供は親の老後の面倒を見る必要がないから、子供も年金制度から利益を得ている。年金給付負担倍率で、年金世代間の公平性を判断するのは間違っている」という意見がある。

 

年金制度がない時代は、子供は老後の親を扶養しなければならなかった。そのため、高所得の子供を持った親は子供の扶養のおかげで、悠々自適な老後を送れたが、低所得の子供を持った親は子供からの支援を期待できないため、貧しい老後を送らなければならなかった。

 

それに対して、年金制度の下では、社会全体の子供が協力して、老後の親を扶養していることになる。この制度により、子供の貧富の差が親の老後の生活水準に影響を及ぼす程度は大きく低下した。それとともに、子供は老後の親を扶養する負担からかなり解放された。

 

しかし、だからといって子供たち全体で老後の親たちを扶養する負担が減少したわけではない。

 

その最大の理由は、日本人の平均寿命が飛躍的に伸びたことにある。例えば、1960年には、65歳の男性の平均余命は11.6年、女性は14.1年だったが、2015年には、それぞれ19.4年と24.2年へと大幅に伸びた。

 

すなわち、個々の子供が老後の親を扶養しなくてもよくなったとしても、社会全体の子供が老後の親たちを扶養しなければならない期間が、この55年間で、男性の親については7.8年、女性の親については10.1年も長くなったのである。