実際のところ、家賃はどの程度「高く」設定できるの?
それでは、入居者の目線で内装・デザインに気を遣ってリノベーションしたとして、どの程度価値がアップするのでしょうか。リノベーションによって極端な話、新築時と同じくらいの家賃を設定できるものなのかというのは気になるところです。
高い家賃を設定しても、借り手がつかなくては意味がありません。部屋を探している人が「この部屋にならここまでの家賃を払ってもいいな」と思って実際に借りるというように、需要と供給のバランスから家賃水準が決まります。
実際の家賃は、同じエリア・築年数の物件の家賃相場を基準にある程度決まるといえるでしょう。
経年劣化によって物件価値は徐々に下がり、同時に家賃も下がっていきます。これをリノベーションである程度まで回復させられるのは間違いありませんが、同条件の物件との比較では、数千円〜1万円程度高く設定することが一般的のようです。
しかしリノベーションの内容によっては、これ以上の家賃アップを見込むことも可能です。
すでに述べているとおり、賃貸物件の家賃は需給で決まります。不人気であれば家賃をどんどん下げていくスパイラルに陥ってしまいますが、逆に行列ができるような人気物件を創りだすことができれば、家賃は自ずと高くすることができます。
リノベーションによる物件の再生が目指すゴールは、こうした行列ができる物件づくりです。
それでは次項からは、リノベーション物件を2つ紹介します。それぞれのコンセプトと、リノベーションによってどれだけ家賃上昇効果があったのかをご確認ください。
リノベーション家賃アップ事例1 都内ワンルーム
東京都世田谷区内の中古ワンルームマンションをリノベーションによって再生した事例です。リノベーション前は畳敷きの部屋と押し入れという間取りで、築年数が30年を超えている物件にありがちな仕様でした。それまでの家賃相場は9万8,000円です。
【リノベーション内容】
このリノベーションでコンセプトとなったのは、「静かに洒落た、スローな空間」です。縦長の物件であることを活かして開放感と立体感を持たせるために中央にはカウンターキッチンを配し、これがアクセントとなっています。
キッチンスペースと居室を仕切るパテーションには沖縄産の花ブロックを用いるこだわりによって、東京のなかにあってリゾート空間で感じられる「スローな空間」を演出しています。
築30年以上でありながらこうしたオリジナリティあふれる空間を創造したことにより、リノベーション後の家賃は12万円となりました。もちろん入居中であり、22.4%もの家賃アップに成功した事例です。
リノベーション家賃アップ事例2 都内ワンルーム
2つめにご紹介するリノベーション物件は、渋谷へ2駅の好アクセスを誇る三軒茶屋駅徒歩10分のワンルームマンションです。
この物件のコンセプトは、「明かりが灯る、三茶deおうちカフェ」です。このコンセプトにあるように内装デザインはまるでカフェのようなスペースです。この物件のリノベーション前の家賃相場は、10万8,000円です。
【リノベーション内容】
物件の内装を一目見て印象的なのは、コンクリートの表情が見える天井と、足場板が使われたフローリングです。
リノベーションは必ずしも新品同様にすることが目的ではありません。ファッションでいう古着感のようにUsed感を演出するのもカフェの雰囲気を醸し出すのに一役買っています。
なかなか住宅では見ることのないペンダントライトを灯し、それに照らされるキッチンカウンターは自宅にいながらにしてカフェのようなくつろぎを感じることができます。
リノベーション後の家賃は、12万3,000円です。リノベーション前と比較して13.9%の家賃アップに成功しました。
過剰な期待は禁物
ここで紹介したリノベーション物件の事例はいずれも家賃アップに成功しており、しかも高い入居率で賃貸経営の安定化に大きく寄与しています。これを可能にしたのがリノベーションですが、リノベーションには当然ながら費用がかかります。
しかも「ハリボテ」のように上辺だけをきれいにしただけだとリノベーションとはいえず、住み続けることによって入居者の満足度は低下してしまいます。やはり、リノベーションには適正な費用をかける必要があります。
投資としてリノベーション済みの物件を購入する場合は、リノベーション費用が購入費用に含まれています。また、すでに取得した物件の年数が経ち、改めてリノベーションを施す場合は、それまでに得た家賃収入の中から費用を捻出することになります。
費用をかければ、人気の内装・デザインにすることは可能ですが、際限なくお金をかけるべきではありません。回収できないほどの費用をかけては意味がなくなってしまいます。そこで重要になるのが適正な費用であり、コストパフォーマンスです。
家賃を決めるにあたっては、そうしたコストの部分も考慮して、どの程度の頻度で修繕やリノベーションが必要になるのか、それにいくらかかるのかを考えます。
長期的な計画に落とし込んだうえで、トータルで利益を上げられるかどうかを計算する必要があるのです。また、そのエリアの需要予測も併せて考慮する必要があるでしょう。
せっかく費用をかけてリノベーションをするのであれば、それが入居者から支持されるものでなければなりません。その方向性がずれていると費用をかけたものの入居率の改善や家賃アップが見込めず、賃貸経営をより厳しいものにしてしまいます。
重要なのは「マーケットイン」の発想であり、入居者のニーズをしっかりと分析したうえでそれに応えられる物件づくりなのです。
山崎 博久
リズム株式会社
アセットコンサルティング事業部長