2人の関係は、「事件と言ってもいい」ワケ
「見た目は怖かったけど言葉ができるので、直(じき)に優しい人だというのが分かったの。よく冗談も言ってくれた。年齢差は特に気にならなかったわ。彼はいつも世話をやいてくれる上、自分がどんな生活を送ってきたのか話をすれば耳を傾けてくれるの。逆に彼も自分の話をするし、彼といると楽しいわ」
私は半信半疑で話を聞いていたが、何度尋ねてもロナさんは同じようなことを言うのだ。
「中高年の日本人男性と若いフィリピン人女性の関係=お金」という従来の方程式を根底から覆されるような、長らくこの取材を続けてきた私にとっては「事件」と言ってもいいほどの2人の関係だった。
もちろん、この2人がこれからも続くかどうかは分からないが、困窮生活にもかかわらず飄々(ひょうひょう)としている彼を追い掛けることで、「幸せとは何か」という普遍的なテーマを考えるヒントになるのではないかと思ったのだ。
また、吉岡さんは年齢も50歳と本連載に登場する年金生活者たちに比べると若いが、地域密着型の彼の生活スタイルやフィリピン人に対する接し方は、見習うべき点が多々あるような気がした。
水谷 竹秀
ノンフィクションライター
1975年三重県生まれ。上智大学外国語学部卒業後、カメラマン、新聞記者などを経てフリーに。
2011年『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』(集英社)で開高健ノンフィクション賞受賞。他に『だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人』(集英社)など。
10年超のフィリピン滞在歴をもとに、「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材している。