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朝から1時間の雪かき…「雪国で高齢者が生きる現実」
「民家の二階までは届きませんが、私たちが住んでいる所は積もってだいたい1.5メートルぐらいかな。自分の身長より高くはならないけれど、毎年冬には雪かきしないと生活できませんでしたからね」
秋田県大館(おおだて)市出身、岩渕純一(いわぶちじゅんいち)さん(66歳)はそう語った。
話は雪国が直面する現実についてだが、ここは温暖な気候に恵まれたセブ島である。その中心都市の一つ、マンダウエ市の繁華街から少し外れたところにあるアパートの一室で、私は岩渕夫妻と向き合っていた。
純一さんの隣には60歳になる妻の弘子(ひろこ)さんが座り、二人の話に驚く私の様子を見て、「私たちにとっては日常よ!」と言わんばかりに笑った。
純一さんは続ける。
「みんな朝から雪かきしてます。その人の自宅の敷地の広さにもよりますけど、だいたい1時間ぐらいかかります。自分の敷地の中に雪を寄せられる場所があればいいんですけど、ない場合は、除雪機に雪を盛り上げて広場まで行って捨てて、でまた戻して……。それを半日ぐらいやっている人もいます」
弘子さんがすかさず口を挟む。
「除雪車も近所の人たちもみんなその広場へ雪を寄せるんです。ですから一冬ですごい山になりますよ。うちの場合は屋根が三角だったので、落ちた雪を寄せるのが大変だったんです」
私が岩渕夫妻に取材をしてから5ヵ月後の2013年6月半ば、秋田県が発表した雪による被害状況によると、除雪作業中の屋根からの転落や落雪に埋もれるなどした人的被害は、計234人と前年比26人増で、65歳以上の高齢者が半数以上を占めた。雪国で高齢者が生きていく現実をあらためて浮き彫りにする統計である。
人的被害のうち死亡は19人で、市町村別内訳では大館市が横手(よこて)市と並んで3人と最も多かった。骨折や脊髄損傷など重傷は94人、打撲や切り傷などの軽傷は121人だった。