(※写真はイメージです/PIXTA)

2021年9月以来、大手開発業者を抱える中国恒大集団(本拠地深圳)が債務危機で揺れている。不動産業界全体の債務膨張が深刻な問題であることは以前から指摘されており、恒大自体も1年前、同社が広東省政府に救済を求めたとされる文書がネット上に流出し、破綻の噂が流れた。中国当局の対応、不動産業界全体やマクロ経済への意味合い、そして政治的要因が事態を複雑にしているという中国特有の問題を探る。

ジレンマに直面する中央当局は、本問題に一定の距離

社会安定を最優先する当局は、恒大は大きすぎて潰せないが、高債務体質の象徴を単純に救済もできないというジレンマに直面しているというのが市場の見方。当局は、①かつての米国のサブプライムローン危機と異なり、住宅購入頭金比率が高く、大きなリスクに繋がる恐れは低い、②債務を超える資産がある、③不動産業界の高債務体質改善の大方針から、いまのところ冷めた態度(淡定)で、地方政府や国企を表に出し本問題に一定の距離を置いている。

 

人民銀行(PBC)と銀行保険監督管理委員会(銀保監会)は9月までの恒大への行政指導(約談)のなかで、「不動産市場の健全で安定的な発展という国家政策を着実に実施する必要」「恒大は経営安定化に努力し、債務リスクを主体的に緩和し不動産市場と金融の安定を維持すること」と発言。監督当局の言いぶりとして、前者は当局の政策は高債務体質の不動産企業は淘汰しシステミックリスクの発生を防ぐこと、後者は恒大に対し、速やかに資産の売却を通じて債務問題を解決し、リスクが業界、金融全体に波及しないようにすることを求めたものと解されている。

 

PBCが9月に開催した第3四半期貨幣政策委員会例会は、「不動産市場の健全な発展と住宅購入者の合法的利益を擁護」と個別業界に異例な形で言及。厳しい市況抑制策(図表2)を緩和するシグナルかと注目された。他方、直後のPBCと銀保監会による不動産金融工作座談会では「房住不炒」、つまり「住宅は住むもので投機するものではない」が再度強調されたため、政策の急激な転換はない(非急転弯)、市場は守るが1企業を守るわけではない(保房不保企)との方針を示しただけなど、市場はその都度敏感に反応している。

 

また10月、PBC、銀監会は記者会見などの場で質問に答え、①市場情勢を踏まえず、やみくもに事業を多角的に拡張した恒大の経営がこうした事態を招いた、②恒大固有の問題で大半の不動産企業の経営は安定、③関係部門や地方政府が恒大に資産処理加速を促している、④金融負債は総負債の3分の1以下で、債権者は分散し個々の金融機関のリスクエクスポージャー(リスクを有する金融資産)は大きくないため、金融全体のリスクに繋がることはないとの見解を示した。4大銀行や中堅銀行も自行のエクスポージャーは小さく、制御されているとしている。

 

10月24日付新華社は「10問中国経済」と題する包括的な経済論評記事を配信。現在内外が関心を持つ10大問題として、2021年の下期にかけての成長率鈍化や電力不足などと合わせ金融リスク防止を掲げ、上記PBCや銀保監会と同じ見解を示したが恒大の名前への言及はなかった。

 

(出所)中国現地報道より筆者まとめ
[図表2]2021年不動産市況抑制策 (出所)中国現地報道より筆者まとめ

 

中国の事務官僚や学者のあいだでは、次の点を考慮するとリスクの波及はないとの見方が強い。

 

①債務は住宅購入者からの販売仮受金と銀行・金融会社債務、対外借入から成るが、仮受金は当局が厳格に管理、その他は一般に担保付きで、法に基づく資産整理の下で自己責任の範囲で各債権者が損失を負担

 

②資金供給を担う銀行や国企を当局が厳格に管理

 

③資金の国境を越える自由な移動はなお制限

 

④欧米ほどレバレッジの高いデリバティブ(金融派生)商品はまだない

 

⑤党が破産や債務整理の手続きを決める裁判所(法院)を支配

 

欧米が常々中国の特異性として批判している要因も多く、これらがアジア金融危機やリーマンショックの再来を防ぐとすれば皮肉なことだ。

 

上記①について、多くの地方政府がすでに8月末から、仮受金が他の債務返済など住宅建設以外に流用され、住宅建設工事が中断または手抜き(烂(ラン)尾楼)になって購入者に影響が及ぶことを防ぐため専担チームを設置し、仮受金を指定口座で管理強化。恒大の場合、全国280以上の都市で1300以上の不動産プロジェクトがあるが、2020年末時点仮受金1455億元、うち少なく見積もっても数百億元が流用された(地元経済誌)。当局の意向を受けた銀行が他の開発業者にも同様の措置を採る動きがある。

 

 

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