新卒時に職に就けなかった人、不本意ながら非正規雇用に就いた人が多い就職氷河期世代。同世代より若い世代も不遇を味わってはいるが、やはり就職氷河期世代が抱える問題は際立って大きいようだ。日本総合研究所・主任研究員の下田裕介氏が解説していく。 ※本記事は、書籍『就職氷河期世代の行く先』(日本経済新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
「賃金減少」氷河期世代が受け取れなかった、アベノミクスの恩恵 (※写真はイメージです/PIXTA)

「転職しても賃金が上がらない」厳しい現実

また、かつてと比べて広がりをみせているとされる転職市場について、厚生労働省「雇用動向調査」における男性の転職動向をみると、過去1年間に就業経験があり、転職を果たした人の割合を示す転職入職率は、多くの年齢階級で上昇したなか、就職氷河期世代を含む40代後半はほとんど変化していない([図表2])。

 

[図表2]転職入職率と賃金変化(6年平均、男性)

 

また、その水準をそれぞれみると、就職氷河期世代を含む30代後半、40代前半、40代後半は、2018年にそれぞれ7.5%、7.0%、5.4%であるのに対して、同世代よりも若い年齢階級の方が高く、例えば20代をみると、就職氷河期世代の2倍近い転職入職率となっている。

 

そうしたなかで、転職後の賃金変化にも差がみられる。いずれの年齢階級においてもアベノミクス以前よりも改善してはいるが、就職氷河期世代は30代後半こそマイナスからプラスに明確に転じたものの、40代前半および40代後半は落ち込みは和らいだとはいえほぼ横ばい、またはマイナスのままである。

 

これに対して、30代前半以下の若年層においては転職後の賃金上昇幅が高まっている。

 

かつて耳にすることが多かった転職市場35歳限界説は、近年その変化が指摘されており、就職氷河期世代のなかで職を変えて成功している人がいるのも確かだ。もっとも、全体としてみれば、転職市場の中心と改善度合いが大きいのは、やはり就職氷河期世代より若い世代といえよう。

 

さらに、賃金面でも同様の傾向がみられる。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から、正社員の所定内給与、および大卒初任給について、アベノミクス前と後の変化をそれぞれみると確認できる。

 

アベノミクス前の2012年には、リーマン・ショックの影響もあって、男女の多くの年齢階級で7年前と比べて減少している([図表3])。

 

[図表3]所定内給与の増減(7年前比)

 

そうしたなかで、当時の就職氷河期世代の中心である30代前半~40代前半は特に減少幅が目立つ。これが、アベノミクス始動後、2019年までの7年間で、若年層では20代後半や30代前半が高めのプラスとなったほか、大卒の初任給についても上昇幅が高まっている。

 

一方、就職氷河期世代をみると、30代後半の男性こそプラスに転じたものの、40代前半や40代後半は、下の世代とは対照的に減少している。

 

アベノミクスにより、企業収益が増えたことは事実であるが、それが家計の所得増にまで波及したかというと、一律ベアのような形ではなく、若年層を中心とした一部の層の賃金改善というケースが多く、就職氷河期世代の懐は温かくはなっていないのだ。

 

 

下田 裕介

株式会社日本総合研究所 調査部 主任研究員