女騎士「見てくれ! ようやく簿記2級に合格したのだ!」
オーク「ああそうかい」
女騎士「これで原価計算も決算作業も怖くないぞ!」
オーク「そりゃよかった」
女騎士「なんだ、気もそぞろな返事だな。何かあったのか?」
オーク「お嬢ちゃん、聞いてねえのか? 敵の軍勢が近づいてきてんだよ」
女騎士「敵」
オーク「ああ。『勇者』とかいう異国のテロリストだ」
女騎士「勇者、だと……!?」
オーク「俺たちの主たる事業は、人間国で暮らす魔物との輸出入だ。この町は人間国との国境からも近い。こうなることは覚悟していたさ」
女騎士「ま、待ってくれ! 『勇者』は人間国の英雄だ。戦いを避ける方法が、きっと──」
オーク「あんた、勇者と面識があんのか?」
女騎士「……いいや、ない」
▼国境地帯
勇者「みんな! この峠を越えれば、いよいよ魔国で最初の町だよ!」
商人「よっしゃ! パーッとやったりましょ!」
賢者「魔物たちの……強い抵抗が予想される……」
僧侶「私が皆さんをお守りします!」
勇者「ありがとう、ここまで来られたのはみんなのおかげだよ。どんな障害があろうと、はねのけてみせる!」
商人「ええで! その意気や!」
勇者「……でも、本当にいいのかな。魔物とはいえ、あの町の住人たちにも生活が──」
賢者「勇者、副都の悲劇を忘れてはダメ……。魔物に襲われて8万人が命を落とした……」
商人「その8万人のなかには、僧侶さんの弟もおったんやろ?」
僧侶「……」
勇者「そうだったね……」
▼オークの町
オーク「野郎ども、棍棒は持ったか! 異国の連中にこの町は渡さない!」
魔物たち「「「うぉぉぉおおお!」」」
女騎士「お前たちは勇者の強さを知らない。死ぬぞ!」
オーク「ああ、そうだろうな」
女騎士「だったらなぜ──!?」
オーク「命に代えても守りたいもんがあんだよ。……お嬢ちゃん、ちょっとこっちに来い」
グイッ
女騎士「わわっ、何をする! 放せ!」
ガシャーン
女騎士「なぜ私を牢に入れる!? ここから出せ! デュランダルさえあれば、私だって力になれる!」
オーク「デュランダルさえあれば、何だって? 戦えるっていうのか? 同じ人間を相手に?」
女騎士「そ、それは……」
オーク「これは戦争で、お嬢ちゃんは捕虜だ。捕虜に助けられちゃ、俺たち魔族の名がすたる。……いいか、お嬢ちゃんは手を出すな」
女騎士「だが、死に急ぐことはあるまい! せっかく事業が軌道に乗ってきたのだろう? 黒字決算になりそうなのだろう!?」
オーク「ハハハ、そうだったな。……覚悟しておけ、経理担当者にとっては決算もまた戦争だ。お嬢ちゃんにはそっちで兵士になってもらう」
女騎士「し、しかし……」
オーク「勇者と決算……2つの戦いが終わったら、1杯やろうや」
▼国境地帯
勇者「そうだ……。人間国のみんなが、僕たちの勝利を祈っているんだ。絶対に勝とう!」
賢者・商人・僧侶「「「おおーっ!」」」
▼オークの町
オーク「いいか、ただでは死ぬな! やつらのHP1点でもいい、MP1点でもいい。削り取ってから死ね!」
魔物たち「「「うぉぉぉおおお!!」」」
それは、「戦い」と呼ぶにはあまりにも一方的だった。住人の大半は町から逃げず、勇者たちを迎え撃った。半刻をすぎるころには抵抗は弱まり、一刻を待たずして町は火の海となった。そして武器をとった住人は1人の例外もなく、勇者の剣に倒れ、賢者の魔術に焼かれ、商人の銃に撃ち抜かれた──。
女騎士「……ぃ……! ……おい! しっかりしろ!」
オーク「……な……んだ……お嬢ちゃん……。まだ、この町に……いた、のか」
女騎士「喋るな! 今、止血を──」
オーク「胃を……やられ、た……。もう、俺は……助からん……」
女騎士「!!」
オーク「……無理に、働かせて……悪かった……、俺を、憎んで……いる……だろう」
女騎士「バカな! 憎んでなど……」
オーク「はは……。そう、だった……人間は、ウソをつく……種族、だった……」
オーク「お嬢ちゃんは……人間国に、戻れ……。そして……自分、の……じん……せい、を……」
女騎士「……」
オーク「……」
女騎士「……おい」
オーク「……」
女騎士「おい、目を開けろ!」
オーク「……」
女騎士「……くそっ……くそぉぉお!」