(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、武者リサーチが2021年10月11日に公開したレポートを転載したものです。

岸田新政権の「外交」と「ハイテク産業蘇生」に期待

このようにこの間の株価暴落は岸田新政権の負の側面がもたらした「岸田ショック」であるという要素は否定しがたいが、世界の投資家がほとんど織り込んでいない岸田政権のポジティブな面も、指摘しておきたい。

 

それは米国と連携した中国を除くグローバルサプライチェーンの構築と、日本のハイテク産業蘇生プランである。甘利幹事長が旗振り役となって設立された「自民党半導体議連」が、岸田内閣では初の経済安全保障担当相創設に結び付いた。

 

今年6月「自民党半導体議連」では「前例のない異次元の支援による半導体産業基盤強化」が決議され、経産省はそれに呼応して「半導体・デジタル産業戦略」を発表した。

 

甘利氏は「半導体を制する者が世界を制する」と述べ数兆円規模での予算措置を求めていた。これが現実のものとなりそうなのである。その第一弾として、世界最強の半導体生産企業TSMCがソニーと合弁で熊本に半導体工場建設を進めるなど、大投資が胎動しつつある。

 

主要プロジェクトとして、①TSMCがソニーと協力し、九州に前工程工場を作る、②TSMCは日本の関連企業と協力し筑波に研究開発センターを設置、筑波にはオープンイノベーション拠点、TIA(つくばイノベーションアリーナ)を設立、③先端半導体、パワー半導体などの共同技術開発、④デジタル投資(DX)促進によりロジック半導体の国内需要を喚起し半導体設計を強化する、等が検討されている。

 

30年前、世界の半導体市場の過半のシェアを持っていた日本は米国の日本叩きと超円高のために、韓国・台湾・中国に追い抜かれ、今や世界ハイテク競争の負け組と評価されている。

 

しかし日本は、米国企業傘下(マイクロンテクノロジー、ウェスタンデジタル等)工場を含めれば、半導体の世界生産能力シェアは19%と、米国・欧州のほぼ2倍の規模を維持している。加えて半導体製造装置では世界シェア32%、半導体素材では世界シェア56%となっており(Omdia調べ)、ハード面では世界で最も充実した産業基盤を依然維持している、と言える。

 

またやはりOmdiaの調べでは、半導体工場数は日本は依然世界最大である(日本84、米国51、中国42、EU40、台湾21、韓国11)。

 

もちろん日本の残存工場の大半は何世代の前のものではあるが、そうであってもその先に多様なユーザーがいることを示唆している。

 

そうした日本に存在する周辺技術の強みを生かし、半導体エコシステムを強固にする必要がある。

This time is different 日本のハイテクエコシステム強化は米国の国益

岸田政権の経済安全保障イニシャティブが、日本半導体産業の復活に結び付いていくのだろうか。

 

韓国・台湾・中国が国策で半導体産業を支援する中で、日本半導体は米国に叩かれ、企業内では半導体部門はお荷物とされて投資に大きく出遅れ、何度かの政府による半導体再生プロジェクトもことごとく失敗した。この凋落、敗退のトレンドからの転換は可能だろうか。

 

今回は今までとは異なり、可能であろう。米国は本気で日本を核に半導体の安全サプライチェーンを作ろうとしている。

 

日本の半導体・ハイテク産業の利益と米国国益が初めて完全に一致したことの意義は、強調されるべきである。

 

武者リサーチが3年前から主張していることだが、米中対決における危険地域、中国・台湾・韓国に米国は半導体供給の7割以上を依存しているという現実は危険すぎる。

 

この状態を変えるためには、日本への生産集積シフトが必須なのである。日本のハイテク復活の兆候が見えてくれば、外国人投資家は再度日本に注目せざるを得なくなるかもしれない。岸田新政権の経済政策には、株式市場にとっての明暗二面性があることに留意をしておきたい。

 

 

武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表

 

 

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