都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにより、単身者は「食卓に座って流しまで手が届く」ほどの狭さの1DKへの入居を余儀なくされました。その実態を住民へのインタビューとともに、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「ウサギ小屋だよ」都営団地、建替えの実態…「1DKに車いす」の悲惨 各フロアに10戸が並んでいる新築号棟(撮影年月:2012年11月 撮影者:朴承賢)

「1DKは人間の生活じゃない」と話す自治会役員

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政策としては、ファミリー向けの団地を増やしていくことを打ち出しているが、老朽化しているところの建替えだから、既存の住民の引っ越しだけでも精いっぱいであるため、老人団地みたいになっています。(1964年の東京)オリンピックの頃にいっぱい作り、老朽化している今の団地に住んでいる単身者が増えているので、ファミリー向けを増やすのが基本政策であるが、結局は一人暮らし向けを建設する。広さについては、都営の基準があるし、その時の住宅事情によるものです。(2010年6月、東京都都市整備局の桐ヶ丘団地建替え担当者へのインタビュー)

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また、この担当者は、現在の団地の世帯構成を意識したうえでの4対4対2の計画なので、1DKの部屋は壁を抜けるような形に設計されており、将来家族世帯向けに部屋を広げることが可能であると説明していた。

 

1DKの建設、そして建設される1DKがさらに狭くなっていることは、もちろん桐ヶ丘団地だけの建替え傾向ではない。近くにある十条の都営団地に40年以上居住し、建替えで桐ヶ丘団地へ移転してきたある住民は、「十条は2DKじゃなくて2Kとなり、そのためキッチンのそばに洗面場があったり、部屋と部屋のあいだにキッチンやお風呂がある形で建替えられ、使い勝手がすごく悪くて、桐ヶ丘団地へ引っ越すことに決めた」と話した。

 

桐ヶ丘団地の住民たちが建替えで最も不満を表すのは、40%にのぼる1DKの建設と、一人暮らしはこの1DKへ移転せざるをえないということであった。住民たちは、将来高齢者向けのベッドや車いすを入れなければならなくなったとしたら「ギリギリだ」と空間的な狭さを批判した。それは、家族の介護が必要となっても、居住者以外の存在を受け入れる空間的な配慮がないことに対する批判であった。

 

住民たちは「住んでいる人の考えではなく、建てる人の考えだ」「1DKは人間扱いではない」「1DKは住宅政策の大失敗」と、1DK建設を批判する。1DKへの抵抗は、単なる狭小の問題ではなく、その空間がもたらす孤立や孤独への問題提起でもあった。

 

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1DKは人間の生活じゃない。石原都知事(当時)の考えは1DKに高齢者を入れて、死んじゃうと壁をぶち抜いて家族を入れる構想かもしれないが、今の建替えは今の住民が死ぬことを待っているようだ。1DKは住宅政策の大失敗です。大きい部屋がほしくてお金払っても駄目だ。一人だと1DKにしか入れない。お金があったら民間に行きなさいというのよ。石原都知事が桐ヶ丘団地に来て「都営住宅の人になんでこんなに贅沢な生活をするルームができたのか」と話したって。(2010年7月、自治会役員たちへのインタビュー)

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