都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにより高齢の住民たちは「住みにくさ」を感じており、建設事務所側の意図した「便利さ」は残念ながら伝わっていないようです。住民へのインタビューとともに、その実態を、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
都営団地「1DKはひどい」建替えを嘆く住民…設計担当者とのすれ違い (撮影年月:2013年11月 撮影者:朴承賢)

建替えで「引っ込んだ玄関」の意外な問題点

桐ヶ丘団地内で移転したK自治会のある男性は、以前と今の間取りを比較して家の中の絵を描きながら、「狭くなった」「窓があっても狭い、狭い」と言い、以前と比べると「今の方が使い勝手が全然悪い」と不満を言った。彼は1969年に入居して、子供3人を団地で育て、2013年11月の聞き書き当時は、新しい住宅に引っ越してから丸5年になったと語った。

 

※ 建替えにより、単身者は和室6畳、食事室4.5畳の1DKへ、2人世帯は和室6畳、洋室4.5畳、食事室6畳の2DKへ、3人以上の世帯は和室6畳、洋室4.5畳、洋室4畳、食事室6畳の3DKへ入居することになった。

 

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以前は風呂場にも流しにも窓があったが、今の1DKには窓がない。2DKにも小さい窓があるだけで明かりがない。今は全然(室内の)様子がわからない。お風呂も台所も窓がなくて昼でも電気をつけなきゃ。1DKはひどい。光が入らないし、風通らないし、会話が遮断されているし。ようするに(他人と)接触する機会がうんと減っちゃった。流しの窓がなくなっただけでも、人の動きがわからなくなって。前は、夏はみんな窓を開けているから、隣りどうしの立ち話ができたけどね。(2013年11月、K自治会の男性住民へのインタビュー)

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K自治会の男性住民の発言のように、かつては台所の窓がフロアを共有している住民どうしで対話ができる窓口として存在していた。しかし、建替えで新しくなった家では、それが遮断され、日常的な交渉の可能性が少なくなっている。

 

さらには、孤独死が疑われる状況でも、室内の様子をうかがうことができず、閉鎖的な空間計画に対して問題提起する自治会役員もいた。

 

建替え後は、各部屋のガス、電気、排水管などがまとまって玄関のそばに位置し、玄関が引っ込んだ形になっている。

 

建替え前は浴槽などの排水が上から下まで家の中を通過するため、上で水を使うと水が流れる音が聞こえて、夜にはうるさいくらいであったという。今はガス、電気、排水管が入る部分が各戸の玄関のそばに位置する(2017年8月撮影)
[写真1]引っ込んでいる玄関の様子 建替え前は浴槽などの排水が上から下まで家の中を通過するため、上で水を使うと水が流れる音が聞こえて、夜にはうるさいくらいであったという。今はガス、電気、排水管が入る部分が各戸の玄関のそばに位置する(2017年8月撮影)

 

住民たちへのインタビューから、意外にもこの引っ込んだ玄関が問題視されていることがわかってきた。引っ込んでいる玄関のせいで、明るい感じがなく、不安を覚えるという話であった。また、隣りどうしが顔を合わせる機会も減って、静かすぎるフロアになってしまったとも語った。