都営住宅、「桐ヶ丘団地」。建替えにより、単身者は「食卓に座って流しまで手が届く」ほどの狭さの1DKへの入居を余儀なくされました。その実態を住民へのインタビューとともに、文化人類学博士の朴承賢氏が解説します。※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「ウサギ小屋だよ」都営団地、建替えの実態…「1DKに車いす」の悲惨 各フロアに10戸が並んでいる新築号棟(撮影年月:2012年11月 撮影者:朴承賢)

「税金でお世話になっているので」…複雑な心境の内

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家賃考えたら、十分だという人もいるかもよ。家賃高いことよりはいいから。特に男の人。でも、女は違う。いやだ。ウサギ小屋だよ。ひとりでも荷物がいっぱい。荷物を置く部屋がほしくなる。寝たきりになったら、家族が寝る場所がない。ベッド入れると寝泊りが難しくなる。子供が来ても、泊まってもらえない。車いすでいっぱいいっぱい。(2011年11月、民生委員3人へのインタビュー)

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結婚して家族を形成して初めて住宅政策の対象となった日本の家族中心の住宅政策、生活保護を受けていても単身者には入居資格を与えなかった1950年代からの公営住宅制度を振り返ってみると、1990年代の建替えで40%に及ぶ1DKが計画されたことは、家族規範がいかに急変してきたかを表している。

 

1960年代の累積結婚率を見ると、40歳以前に一度でも結婚したことがある者の割合は、男性は97%、女性は98%を超えるほどで、当時は皆が結婚して家族をつくる時代であった。

 

一方、50歳の時点で一度も結婚をしたことのない人の割合を「生涯未婚率」とすると、2030年になると男性の生涯未婚率は29%、女性は23%と予想される。単身世帯数は増えつつあり、1985年から2005年の20年間で、80歳以上の男女単身世帯数が5~7倍にも増えた[藤森2010:1-2]。

 

こうした家族規範の急激な変化に比べると、家族の器としての住宅は、その変化に追いついていないような印象さえ与える。

 

しかし、「狭い」という不満は、単に広さに対する問題提起ではなかった。それは高齢者たちの身体的状況と間取りの不調和によるものでもあった。「ベッドを置くと家がいっぱい」になるし、「車いすがドアを通過するのもギリギリ」だという話がよく聞こえた。

 

それにもかかわらず、建替えに関する集団的な異議申し立てが発生しないのはなぜだろうか。「税金でお世話になっているので我慢するしかない」という言葉には、住民たちが感じている複雑な気持ちが込められているように思われる。

 

 

参考文献

藤森克彦 2010 『単身急増社会の衝撃』 日本経済新聞出版社

 

 

朴承賢

啓明大学国際地域学部日本学専攻助教授