生活困窮者の相談に乗り、生活保護の申請を手助け、住まいを紹介するNPO法人・生活支援機構ALL。「困っている人は誰でも、門を叩いてほしい」と代表理事の坂本慎治氏は語る。活動を始めたきっかけには、不動産会社で働いていたころの壮絶な原体験があった。 ※本連載では書籍『大阪に来たらええやん!西成のNPO法人代表が語る生活困窮者のリアル』(信長出版)より一部を抜粋・編集し、日本の悲惨な実態に迫っていく。
3日間野宿「DV男から逃げてきた母子」…不動産会社たらい回しの悲惨 (※画像はイメージです/PIXTA)

お客さまを見て「丁寧に帰ってもらえ」…上司の指示のワケ

不動産会社でバリバリ働いていたころのことです。

 

天王寺公園で3日間野宿をしているという母子が、ふらふらと会社に入ってきました。「住むところを探している」といいます。

 

私の脳裏に、前職である、賃貸専門の不動産会社で働いていたころのある記憶が蘇ってきました。

 

部屋を借りにきているお客さまの中に、上司から「丁寧に帰ってもらえ」と指示されたスタッフがやんわりと追い返している方が、月に2〜3人いました。

 

どう見ても真剣に住まいを探している様子だったのに、なぜ「丁寧に帰ってもらえ」と追い返すのか。当時の私には理解できませんでした。

 

それから経験を積んでいくにつれ、私は徐々に、「丁寧に帰ってもらえ」と指示を出した上司の意図がわかってきました。

 

「丁寧に帰っていただいた」人たちはみな、生活保護受給者や精神障がい者、70歳以上の老人、生活困窮者、外国人のいずれかに当てはまっていたのです。

 

上司は、彼らに賃貸住宅を紹介することで「面倒なことに巻き込まれるのではないか」と危惧し、あらかじめそのような客層を避けていたのでした。

 

私は、経験が浅いながらにぼんやりと、「丁寧に帰っていただいた人はその後、どうなるのだろう。どこへいくのだろう。誰が面倒を見るのだろう」と案じていました。

 

時は流れ、今、目の前には現に、天王寺公園で3日間野宿をし、住むところを探している母子がいます。

 

「もう何日も、水しか飲んでいません。いろいろな不動産会社を頼ったけれど、どこも相手してくれなくて……どこか部屋を貸してくれませんか? せめて、娘だけでも助けてください……」

 

母親は切実に訴えます。その横では、娘さんが力なく俯いています。

 

スタッフのひとりが、まさに私が以前いた会社のスタッフのように、丁寧にお断りして帰っていただこうとしました。

 

私は咄嗟に、「ちょっと待って」と声を上げてしまいました。