「ちょっと待って」独断で物件へ連れて行った結果
母親は、見るからに体調が悪く、ガリガリに痩せ細っています。ここで追い返したら、命までもが危ない。私はそう感じました。
私のお客さまのひとりに、空き室がたくさんある文化住宅を持っているオーナーさんがいます。
「あの人だったら、たぶんどうにかしてくれる」。私は祈る思いでオーナーさんに電話をしました。
「そんなにやばいんやったら、ウチの部屋をぜひ使ってくれ」と、オーナーさんは快諾してくれました。
ウチの社長のおっちゃんは不在でしたが、「話せばわかる」人。私は独断で、母子をそのままオーナーさんの物件に連れていき、契約を済ませました。
オーナーさんは「なんも食べてないんやろ?」と、スーパーでお弁当を買ってきてくれたり、ホームセンターでふとんや鍋を買ってきてくれたりと、至れり尽くせりの対応をしてくれました。
母子の事情を聞くと、夫のDVに苦しめられ、和歌山の自宅から命からがら逃げてきたのだといいます。オーナーさんのご厚意もあり、母親は生活保護の申請をスムーズに行うことができました。娘さんは児童相談所が引き取るかたちとなりましたが、母子はそれぞれに、平穏な人生を取り戻すべく歩み始めました。
私の中に、「人の命を助けた」という充実感が芽生えました。
同時に、「世の中には、もっと苦しんでいる人がたくさんいる。もっと多くの人を助けなければ」という使命感も芽生えました。「このような活動は、不動産に長く携わってきて、いろいろなオーナーさんの協力を仰げる自分にしかできない」という自負も芽生えました。
ちなみに、先ほどの母子はその後、どうなったか。
母親は1年ほどのブランクを経て社会復帰。梅田のタワーオフィスで働き始め、生活保護を打ち切ります。そして児童相談所へ娘さんを迎えにいき、今では一緒に、幸せに暮らしています。