生活困窮者の相談に乗り、生活保護の申請を手助け、住まいを紹介するNPO法人・生活支援機構ALL。「困っている人は誰でも、門を叩いてほしい」と代表理事の坂本慎治氏は語る。活動を始めたきっかけには、不動産会社で働いていたころの壮絶な原体験があった。 ※本連載では書籍『大阪に来たらええやん!西成のNPO法人代表が語る生活困窮者のリアル』(信長出版)より一部を抜粋・編集し、日本の悲惨な実態に迫っていく。
3日間野宿「DV男から逃げてきた母子」…不動産会社たらい回しの悲惨 (※画像はイメージです/PIXTA)

「ちょっと待って」独断で物件へ連れて行った結果

母親は、見るからに体調が悪く、ガリガリに痩せ細っています。ここで追い返したら、命までもが危ない。私はそう感じました。

 

私のお客さまのひとりに、空き室がたくさんある文化住宅を持っているオーナーさんがいます。

 

「あの人だったら、たぶんどうにかしてくれる」。私は祈る思いでオーナーさんに電話をしました。

 

「そんなにやばいんやったら、ウチの部屋をぜひ使ってくれ」と、オーナーさんは快諾してくれました。

 

ウチの社長のおっちゃんは不在でしたが、「話せばわかる」人。私は独断で、母子をそのままオーナーさんの物件に連れていき、契約を済ませました。

 

オーナーさんは「なんも食べてないんやろ?」と、スーパーでお弁当を買ってきてくれたり、ホームセンターでふとんや鍋を買ってきてくれたりと、至れり尽くせりの対応をしてくれました。

 

母子の事情を聞くと、夫のDVに苦しめられ、和歌山の自宅から命からがら逃げてきたのだといいます。オーナーさんのご厚意もあり、母親は生活保護の申請をスムーズに行うことができました。娘さんは児童相談所が引き取るかたちとなりましたが、母子はそれぞれに、平穏な人生を取り戻すべく歩み始めました。

 

私の中に、「人の命を助けた」という充実感が芽生えました。

 

同時に、「世の中には、もっと苦しんでいる人がたくさんいる。もっと多くの人を助けなければ」という使命感も芽生えました。「このような活動は、不動産に長く携わってきて、いろいろなオーナーさんの協力を仰げる自分にしかできない」という自負も芽生えました。

 

ちなみに、先ほどの母子はその後、どうなったか。

 

母親は1年ほどのブランクを経て社会復帰。梅田のタワーオフィスで働き始め、生活保護を打ち切ります。そして児童相談所へ娘さんを迎えにいき、今では一緒に、幸せに暮らしています。