オードリー・タンの母、李雅卿氏が創設した学校「種子学苑」。子どもたちは、何を学び、いつ休むかを自分で決める自主学習を行います。そんな特殊な学校で働く1人の教師の「発見」を聞いて、李氏が語ったことは…。 ※本連載は書籍『子どもを伸ばす接し方』(KADOKAWA)より一部を抜粋・編集したものです。種子学苑に集う子どもや親、先生から寄せられた質問に、同氏が一つ一つ答えていきます。
天才オードリー・タンの母が深く同意した「教師の思わぬ発言」 ※画像はイメージです/PIXTA

低賃金かつ通勤が大変な「種子学苑」に先生たちが勤め続けるワケ

「種子学苑はどうして教師の離職率がこんなに低いんですか?」とよく聞かれます。私が思うに、仕事の中に常に気づきと学ぶ楽しさがあるということが主なモチベーションになるのでしょう。そうでなければ、お給料も低く、通勤も大変な上、社会から好奇の目を向けられるこの職場で、長く仕事を続けていくのは簡単なことではありません。

 

先生方はこの学苑に一歩足を踏み入れると、権威主義から自由になります。この学苑にとって教員は、誰かの意志を実現するための道具ではなく、自主学習の環境を一緒に作るための仲間です。この考えは教師による学校運営という形で少しずつ実現しています。教育の道具となった教師に、自発的に学ぼうとする子どもは育てられません。たとえ教育者としての強い自覚がある先生でも、教育の道具にならないとは限らないのです。

 

こうした理由もあって、この学苑では教員を募集する時、教育大学出身という学歴や、教員経験があることを重視しません。まずは自主学習の先生にふさわしい性格や特徴の持ち主で、先生自身が一人の「学習者」であるか――つまり自分から心を開いて、自然環境や他人(大人か子どもかに関係なく)に学ぼうとする人かどうかを確認します。

 

次に、自分が学習者であるだけでなく、他人の学習にも協力しようとするかどうかを重視します。この二つを満たしていれば、自主学習の先生としての基本的な素質を備えていると考えます。

 

これらの特徴を持った人がいれば、そこで初めて学問的な専門分野や、教育に対する考え方などを検討していきます。

 

種子学苑にいる先生は、やがて「この学校で働いて得た最も大きな収穫は、自分自身だった」と気づくはずです。なぜなら子どもと向き合う中で、自分の内面にある恐怖心や自分の限界が本当の意味で見えてくるからです。かくいう私も、同じ経験をしました。