(※写真はイメージです/PIXTA)

現役医師である中村重信氏、梶川博氏の著書『認知症の人が見る景色 正しい理解と寄り添う介護のために』より一部を抜粋・再編集し、家族や医療従事者が知っておきたい認知症の症状、治療法について見ていきます。

認知低下を引き起こす疾患③:内分泌機能異常症

a)甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンは脳の働きを活発にします。このホルモンが少なくなると、脳の働きが悪くなり、ボンヤリして、認知機能も低下します。それらの人が、甲状腺ホルモンを服用すると、認知機能も改善します。

 

b)下垂体機能低下症:脳下垂体から出るホルモンが少なくなると、認知機能が低下します。副腎皮質ホルモンやバソプレシンを投与すると認知機能は改善します。

 

c)副腎皮質機能低下症:副腎皮質ホルモンが減りますとアジソン病になり、認知機能が低下します。副腎皮質ホルモンを投与すると認知機能は改善します。

 

d)クッシング症候群:副腎皮質ホルモンが過剰に分泌された時に起こります。肥満、高血圧などとともに、認知機能も低下します。腫瘍を外科的に摘除したり、ブロモクリプチンなどの投与を試みると認知機能が回復することがあります。

 

e)副甲状腺機能亢進症または低下症:副甲状腺ホルモンが多いと高カルシウム血症が起こり、少ないと低カルシウム血症が起こり、いずれも認知機能が低下します。前者にはビタミンD3を、後者にはカルシウムを投与すると改善します。

認知低下を引き起こす疾患④:慢性アルコール中毒など

a)慢性アルコール中毒:飲酒により、ウェルニッケ・コルサコフ症候群、ペラグラ、マルキアファーヴァ・ビニャミ病、アルコール性認知症などの認知機能低下が起こります。断酒をして、ビタミン剤を投与すると認知機能が改善することがあります。

 

b)一酸化炭素中毒:一酸化炭素の中毒により、脳が傷害されて認知機能低下を起こします。できるだけ速やかに高圧酸素タンクの治療を受けることです。

 

c)薬物中毒:多くの薬物により、認知症またはせん妄を起こします。抗がん薬、抗精神病薬、抗菌薬、抗てんかん薬により、認知機能低下が起こることがあるので、服用している薬物を検討することが大切です。中止するか他の薬物に変更する必要があります。

 

d)金属中毒:水銀、マンガン、鉛、アルミニウムなどの金属により、認知機能低下を起こすことがあるので、その場合は金属を除去することが大切です。

 

e)ビタミン欠乏:ビタミンB1・B6・B12・ニコチン酸・葉酸が欠乏すると、末梢神経障害や貧血などに加えて、認知機能低下が起こります。アルコール常用者、消化管切除術を受けた人、抗てんかん薬などを服用している人でよく起こります。ビタミン投与が認知機能を改善することが多いので、血中のビタミンを測定することが大切です。

 

f)高血糖・低血糖:糖尿病やその治療中に、高血糖や低血糖を起こすことがあります。いずれも神経細胞を傷害して、認知機能の低下を起こします。できるだけ早期に発見して、血糖を正常化させると認知機能は回復します。

 

g)電解質異常:血清中のナトリウム、カリウム、カルシウムなどが少なすぎたり多すぎると、認知機能低下を起こします。薬物の副作用として起こることも少なくありません。そのため、できるだけ早急に測定して、輸液により補正することが望まれます。

 

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中村重信

京都市出身、1963年京都大学医学部卒。1990~2002年広島大学医学部内科学第三教授、2002年~広島大学名誉教授/洛和会京都新薬開発支援センター所長(現在顧問)。2005年~公益社団法人「認知症の人と家族の会」顧問。主な著書:ぼけの診療室(紀伊国屋書店、1990)、痴呆疾患の診療ガイドライン(ワールドプランニング、2003)、老年医学への招待(南山堂、2010)、私たちは認知症にどう立ち向かっていけばよいのだろうか(南山堂、2013)受賞:日本認知症ケア学会・読売認知症ケア賞「功労賞」(2017)

 

梶川博

広島県広島市出身。1957年修道高等学校卒業、1963年京都大学医学部卒。1964聖路加国際病院でインタ−ン修了、医師国家試験合格、アメリカ合衆国臨床医学留学のためのECFMG試験合格、1968年京都大学大学院修了(脳神経外科学)医学博士。1970年広島大学第二外科・脳神経外科(助手)、1975年大阪医科大学第一外科・脳神経外科(講師、助教授)。1976年ニューヨーク モンテフィオーレ病院神経病理学部門(平野朝雄教授)留学。1980年梶川脳神経外科病院(現医療法人翠清会・翠清会梶川病院、介護老人保健施設、地域包括支援センター)開設、現在会長。医学博士。1985年槇殿賞(広島医学会会頭表彰)、1996年日本医師会最高優功賞。日本脳神経外科学会認定専門医、日本脳卒中学会認定専門医、日本脳神経外科救急学会・日本神経学会・日本認知症学会会員、広島県難病指定医、広島県「もの忘れ・認知症相談医(オレンジドクター)、日本医師会&広島県医師会、日本医療法人協会&全日本病院協会広島県支部所属。メールアドレス hkajikawa@suiseikai.jp

 

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『認知症の人が見る景色 正しい理解と寄り添う介護のために』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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