「誰も自分の能力に気づいてくれない」と感じるときは
■道をコロコロ変えるな
私はいつも若者には「なるべく自分の立ち位置を変えないように」と言っている。
昨日は政治家、今日は教育家、明日は実業家というふうに仕事をコロコロ変えるのは、自分のためにならないのはもちろん、国家や社会にもいい結果をもたらさない。これは強調しておきたい。
しかし、人はどんな場合でも絶対に進路を変えてはいけないというわけではない。もちろん、個人の考え方によっては、他にどうしようもなくて、変化を余儀なくされることもあるだろう。
ただしそんな場合でも、まず道義に基づいているかを考えてほしい。自分の考えを整理し、周囲の事情とよく照らし合わせ、本当に「これでいい」と確信を持ってから断行すべきだ。
形勢をむやみにうかがって進退に迷うような状態は、下手な釣り人が、竿を降ろす場所をのべつ幕なしに変えるようなものだ。
■人を惹きつける人であれ
いくら自分を高め英気を養っていても、その能力が誰からも発見されない、といったケースもときにはある。《略》だから、自分を確立すると同時に、一方で大いに「伯楽」を吸いつける力も養ってほしい。
ただ他人が吸い付けてくれるのを待つ鉄のカケラではなく、こちらからすごい力で吸いつける――。そんな磁石にならなくてはならない。
これも結局のところ自らの実行と実働にかかっている。実行・実働の若者なら「仕事がなくて困る」なんてこともなければ、社会の中で上手くいかないこともありえない。
渋沢 栄一
編訳:奥野 宣之