化学系会社にて5年間ISO規格の品質及び環境マネジメント事務局を担当していた尾﨑裕氏の書籍『ヒューマンエラー防止対策』より一部を抜粋し、ヒューマンエラーの根本的原因について解説します。

妻が料理に失敗…考えられる原因は?

【どこでエラーが起こったのか】

①の五感の工程:
今日の妻は、いつもと違って少し体調が悪かったようです。そのため、舌にある味細胞の感覚がいつもより少し鈍感になっていました。その結果、感覚として塩味を少し感じにくく、いつもと同じ味なのに、若干塩味が少ないと感じてしまいました。

②の前処理の工程:スープの味見の時、少し慌てていたのでしょうか。食事中は、香辛料の良い香りを感じながらスープを味わうので、薄めの味付けの方が野菜の旨みを実感できます。しかし、この時はなぜか、脳への情報が単に塩味としてだけの味わいのない情報しか伝わりませんでした。

④の思考の工程:野菜は煮ると、中から水分が出ます。鍋の中の野菜の状態から、水分と野菜の甘みが少しでてくると判断しました。しかし実際は、既に鍋の中の野菜からは水分が出きっていて、これ以上水分や甘みが出ない状態でした。このため、調理を終える頃の鍋は、この時よりも煮つまってしまいました。

⑤の判定の工程:振り入れる塩の量としては、“二振り”入れる必要があると判断しました。しかし、実際にはその半分の塩で十分に塩味は足りていたようです。

⑥の動作の工程:今日はご主人の誕生日です。妻が塩を一振り振ったところ、これからの一家団欒の楽しい一時を想像しながら手を忙しく動かしていたため、なぜか一振りで予想していた量の2倍ほど塩が入ってしまいました。

⑥の動作の工程(スリップ):夕飯の用意も最後の仕上げの段階です。時計を見るとあと10分でご主人が帰宅します。居間では、子供達がお腹を空かせ待ちわびています。食事までにやらなければならないことをあれこれと考えながら調理をしているうちに、塩を振り入れるのを忘れてしまいました。

 

上記に示した何れの結果も、スープを美味しく作るという目的に対しては、明らかにエラーです。しかも、そのエラーの結果は、作業をする本人の望む状態ではありません。これらの例から、人間の思考の中には、多くのエラーを起こさせる“齟齬の種”が存在することがお判りいただけたと思います。

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『ヒューマンエラー防止対策』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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