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ワクチン開発や感染拡大一服でM&A件数が増加傾向
2021年暦年のM&A件数が2008年のリーマンショック以来の最多記録を更新する可能性が出てきた。
ストライクの集計によると、上場会社が関連したM&Aの件数は1~11月の累計で800件を超え、12月分を含めた暦年の最高件数(2008年、870件)に迫っている。新型コロナウイルスのワクチン開発が進んだことや、感染拡大が一服したことで企業がM&Aの交渉をしやすくなったことが背景にある。
企業の「選択と集中」や事業売却などの動きも強まっており、ニッセイ基礎研究所の井出真吾上席研究員は「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)導入で企業が資本効率の向上を迫られるなかで、コロナ禍が広がったことがM&A市場を後押ししている」と話している。
全上場企業に義務づけられた適時開示情報から経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A仲介のストライク(M&A Online)が集計した。
2021年のM&Aは、ITソフトウエア業界などがけん引
1~11月のM&A件数は803件と前年同期と比べて4%増加した。2008年1~11月(812件)以来の高水準に達している。
仮に12月のM&A件数が今年1ヵ月の平均(約67件)に達すれば、2008年に並ぶ高水準となる計算だ。新型コロナウイルスの感染者数は12月も低い水準が続いていることから、2021年のM&A件数は2008年を上回ることも十分考えられる。
業種別でみると、1~11月期はIT・ソフトウエア業界のM&A件数が154件とリーマン以来の最多に達した。コロナ禍の鎮静化や企業の選択と集中に加えて、IT人材の不足を背景とした雇用確保の目的もあるとみられる。IT業界のM&Aは最近、増加傾向にあることから、2021年も最多記録を更新しそうだ。
建設業のM&Aも活況が続いており、1~11月期の件数は2008年以降で最高水準にある。このほか、サービス業や製造業も堅調で、それぞれのM&A件数はすでに200件前後に達している。
コロナ感染者数の鎮静化で「リベンジM&A」が増加
M&A市場が再び活況になりつつある背景には、コロナ禍への不安が後退し、いったんとりやめたM&Aを再開する機運が強まっていることがありそうだ。自粛生活で進まなかったM&A交渉が一気に進む「リベンジM&A」が出てきているというわけだ。
ストライクが7月に実施した経営者アンケートによると、コロナ禍で中止したM&Aを「再検討する」と回答した人は90.9%に達した。事業承継関連のM&Aについて、再検討すると回答した人100%だった。
証券ジャパンの大谷正之証券調査部部長は「ワクチンの開発・普及などを受けて、コロナ禍で広がっていた経済の先行き不透明感が薄れたことが、経営者心理にも好影響を及ぼしている」と分析している。
企業の資本効率強化への意識が強まっていることも企業のM&Aを後押ししている。きっかけは、日本でも15年に導入されたコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)で、経営者が株主と向き合い市場を意識するよう求められたことだ。
自己資本利益率(ROE)が欧米企業に比べて低いと指摘されている日本企業も、資本効率の向上をより意識せざるをえなくなり、「選択と集中」が進みやすくなった。これにコロナ禍が重なったことで、不採算事業を売却する動きが加速している。
「物価」と「金利」の上昇圧力には注意が必要
好調にみえるM&A市場だが、死角がまったくないわけではない。
世界的に金利上昇圧力が強まりつつあるからだ。米連邦準備理事会(FRB)は12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米国債などの資産を購入する量的緩和縮小(テーパリング)を加速させる方針を決めた。終了時期の想定を2022年6月から同3月へ前倒しし、2022年中に計3回の政策金利の引き上げを見込む。背景にあるのはインフレ率が目標の2%を大きく上回っていることへの懸念だ。
市場関係者の間では現時点では「米国のインフレは来年後半に落ち着く」との見方が有力で、日銀も金融緩和の姿勢を維持する姿勢を示している。
ただ、環境保護への意識の高まりなどを受けて資源価格が高止まりしており、日本では輸入物価が高騰。国内外でのインフレ圧力は強まりつつある。米欧の金融政策や物価の動き次第では、日銀も緩和方針の一部修正を迫られる可能性はある。
活況を続けてきたM&A市場は、金融緩和による潤沢な資金供給や超低金利に支えられてきただけに、物価と金融政策の今後の動きについて注視していく必要がありそうだ。
日高 広太郎
株式会社ストライク 執行役員 広報部長
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