「自分で考える力」のない医療従事者は失職の危機
もう一つの力、考える力について考察してみましょう。従来の医療事務スタッフは、自分で考えて主体性をもって働くことは、それほど必要とされなかったのではないかと思っています。なぜなら、レセプトをしっかりチェックすることが彼女たちを雇用する目的で、さらに、雇用される彼女たちもそれを希望していたからです。例えば、求人情報においては、業務内容に「レセプトチェックが行える」と明記して、雇う院長もそれ以上を求めていなかったのではないかと思うのです。
現在、社会情勢は目まぐるしく変化しています。
オックスフォード大学のオズボーン教授は「将来、今ある職業の半分はなくなる」「今いる子どもたちの大半は現時点では存在しない仕事に就くであろう」と言っています。例えばYouTuberが挙げられますが、YouTuberは2017年から子どもたちがなりたい人気の職業トップ5に入っていると聞きます。今の大人世代には想像もつかなかったことです。このように、時代を予測することは大半がむずかしいことなのだと思います。
しかし、企業の経営者なら、想像も及ばない未来が来ることに対してしっかりと準備できていなければなりません。我々クリニックの院長も、クリニックを経営している以上、その例外ではありません。これからの時代は、先人たちが築いたレール(=マニュアル)の上を歩くのではなくて、物事を主体的に考えられる能力が院長にもスタッフにも求められると思うのです。
弁護士の仕事は将来なくなると言われているのを皆さんはご存知でしょうか? 人を相手にする仕事の弁護士がAIに取って代わられる、と聞いて意外に思われるかもしれませんが、裁判は、基本的に過去の判例に基づいて裁判官が判決を下すものです。ですから、過去の判例を全部AIに覚えこませたら、弁護士の代わりができると言われているのです。
また、医師を考えてみても、過去の所見に基づいて実際に診断を下すわけです。膨大な数の所見を覚えるのはAIのほうが得意なので、その部分はAIに取って代わられる可能性はあるわけです。極端に言えば、将来生き残るのは医師よりも看護師と言えるかもしれません。なぜなら、臨床医が行う分析はAIに代わられる可能性があるけれど、看護師の人に寄り添う気遣いはAIのロボットには絶対できないからです。
医師は大学病院の研究者としてのみ――という恐ろしい時代がやってくるかもしれません。
では、医療事務スタッフはどうなるのでしょう? 先ほどお話ししたように、月初の10日間のレセプトのチェック作業自体が、現在すでにコンピュータに取って代わられているわけで、次に何が起きるかを考えると、規模の大きな病院ではすでに行われているように、クリニックでも受付業務や会計業務がAIに代わり、そう遠くない将来に医療事務スタッフという概念自体がなくなるかもしれません。