個人資産が国に厳しく管理される時代が到来
開業医を取り巻く環境は、今大きく変化しつつあります。
たとえば消費税率上昇による増税に合わせた「富裕層への課税強化」という動きもそのひとつです。2015年1月以降、所得税の最高税率は40%(課税所得額1800万円超)から45%(同4000万円超)に引き上げられました。相続税も、基礎控除枠の縮小、最高税率が6億円超は55%に見直されています。
さらに、これまで各種所得金額の合計額が2000万円を超える人に求められていた「財産及び債務の明細書」に代わって、2015年分の確定申告からは「財産債務調書」が必要になります。所得が2000万円を超え、かつ総資産3億円以上または有価証券などが1億円以上の人は、すべて財産の種類、数量、価額などを記入した調書の提出が義務付けられました。しかも、国外送金などに不正があった場合には、原則1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則規定まで設けられました。
加えて、2016年1月からは「マイナンバー制度」の導入が始まり、納税や社会保障制度、預金口座に至るまで、個人の資産が厳しく国に管理される時代がやってきます。NISA(少額投資非課税制度)などによる非課税枠の拡大、贈与税の引き下げといったプラス材料もあるものの、キャッシュリッチで節税対策に苦慮する開業医にとって、こうした動きはやはり大きな打撃といえるでしょう。
急速に拡大し続ける国民医療費を削減するための診療報酬の改定、看護師や歯科衛生士などの医療専門スタッフの人手不足など、開業医に関わる大きな変化も加わり大きな変革が一斉に起きているのです。
大病院に患者が集中し、開業医の競争は激化している
2014年度に実施された2年に一度の「診療報酬改定」では、前年比でプラスの改定になったものの、収入が減少した医療機関が増えて競争が激化しました。実際、帝国データバンクの調べによると、2014年は休廃業や解散した医院の数が347件と、対前年比で12.7%増加したそうです。
法的整理に追い込まれた医療機関も29件と高い水準を示しており、都心部を中心に患者が大病院に集中してしまい、開業医の生き残りをかけた競争が激化しています。
現在の日本政府の財政状況は、社会保障の支出による「一般会計歳出」がどんどん伸びていく一方で、税収にあたる収入の「一般会計税収」は徐々に減少を続け、いわゆる「ワニの口」と呼ばれる状態になっています。
なかでも、公的医療費への支出は大きな位置を占めており、将来的な医療費抑制の動きは止まらないでしょう。実際、政府はすでに「包括医療費支払い制度(DPC)」という形で医療費の上限を定めていますが、今後はさらに厳しい上限制度を盛り込んだ仕組みを設定するのではないかと予想されています。
実際、今の政府の医療についての考え方は「キュア(治療)からケア(医療サービス)へ」と変化しています。従来の治療行為だけではなく、健康リテラシー及び医療リテラシーの向上に注力し、病気を予防するほうが、結果的に限りある医療費を少なくできるのではないか、というものです。
たとえば、2008年4月から始まった「特定健診・特定保健指導」いわゆる「メタボ健診」もそのひとつです。生活習慣病の早期発見によって医療費の削減や重症化を防ぐという考え方で、現在では多くの人に浸透しています。
そのため、将来的には病気になる患者数自体が減り、これまでのような患者が来てから治療を開始するタイプの医療ではなく、積極的な予防医療、「待つ医療」から「外へ出る医療」への転換が求められているのです。学校や企業、介護施設といった人が数多く集まっているところに出向いて積極的に健診や保健指導などを行う経営スタイルのほうが、これからの医療ニーズに応えられる可能性が高いといえるでしょう。