起業をしたなら「いつか上場できるくらい、大きな会社にしたい」と多くの経営者が思っていることでしょう。本連載では、IPO・上場支援で数多くの実績をあげている株式会社タスク代表取締役の竹山徹弥氏がIPOの基本や必須事項、会社上場にまつわる裏話など解説していきます。今回は、IPO直前期における重要な項目の詳細を説明していきます。

審査上で最も重要な申請書類「Ⅰの部」「Ⅱの部」

以下の[図表]にIPOまでの一般的なスケジュールとそれぞれの期におけるToDoを記載しておきます。

 

[図表]IPOまでの一般的なスケジュール
[図表]IPOまでの一般的なスケジュール

 

IPOを目指す際に重要な申請書類として挙げられるのがⅠの部、Ⅱの部です。

 

(1)Ⅰの部とは

Ⅰの部の正式名称は「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」です。Ⅰの部はその後、新規上場時の株式募集や売り出しの際に財務局を通じて内閣総理大臣へ提出する「有価証券届出書」やその際に投資家に交付される「目論見書」に、また、毎年金融庁に提出する「有価証券報告書」にと、目的に応じて変化します。

 

有価証券報告書は法定開示書類ですので、その原型であるⅠの部は上場後の投資家の投資判断に資する書類として、審査が行われます。また、実質審査項目である「企業内容等の開示の適正性」を確認する過程で、Ⅰの部の作成体制(作成者とチェック者などの体制)も重要な確認項目となります。

 

以下にⅠの部に記載する大項目を列挙します。

 

第一部 【企業情報】
第1 【企業の概況】
第2 【事業の状況】
第3 【設備の状況】
第4 【提出会社の状況】
第5 【経理の状況】
第6 【提出会社の株式事務の概要】
第7 【提出会社の参考情報】
第二部 【提出会社の保証会社等の情報】
第三部 【特別情報】
第1 【連動子会社の最近の財務諸表】
第四部 【株式公開情報】
第1 【特別利害関係者等の株式等の移動状況】
第2 【第三者割当等の概況】
第3 【株主の状況】
監査報告書

 

(2) Ⅱの部とは

Ⅱの部の正式名称は「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)」です。上場審査の関係者以外には門外不出の取り扱いを受ける重要な審査資料であり、300頁~400頁のボリュームになります。Ⅱの部はⅠの部(有価証券報告書)の明細であり、IPOの準備をした結果が取りまとめられた資料という位置付けと考えてください。したがってⅠの部とⅡの部の整合性にも留意が必要です。たとえばⅠの部に記載されている定量情報が千円単位であればⅡの部も千円単位になります。

 

マザーズ市場などではⅡの部に代わりⅡの部の簡易版として「新規上場申請者に係る各種説明資料」という資料の提出が必要です。簡易版ではあるものの200頁近い書類になり、不足箇所は提出後、必要に応じて審査質問として確認されます。

 

Ⅱの部は、上場に向けたコーポレート・ガバナンス、内部管理体制の整備状況の確認や最近2年間(直前期、直前々期)の会社の状況との比較に基づく事業計画の妥当性を確認するなど、審査上非常に重要な申請書類となります。作成された社内規程集の運用状況なども記載するため、社内規程集が作成されていない、もしくは作成されていても運用されていないとⅡの部に記載ができませんので、一般的には審査に入れなくなります。IPO準備の手順がいかに重要かご理解いただけるかと思います。

 

筆者はこのⅡの部を「経営の全書」と呼んでおります。作成には文言(てにをは)の統一を含めて、それ相応の時間がかかりますので、タイトなスケジュールの中で、会社の事務作成能力が求められます。なお、Ⅱの部はまず証券会社の審査資料として使用しますので、作成時期を直前期の中間までに設定するとスムーズに審査に入れます。

 

以下にⅡの部に記載する大項目を列挙します。

 

Ⅰ.上場申請理由について
Ⅱ.企業グループの概況について
Ⅲ.事業の概況について
Ⅳ.経営管理体制等について
Ⅴ.株式等の状況について
Ⅵ.経理・財務の状況について
Ⅶ.予算統制等について
Ⅷ.過年度の業績等について
Ⅸ.今後の見通しについて
Ⅹ.その他について
Ⅺ.添付書類について

 

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