望まれるのは「理にかなった契約合意への方向転換」
所有者(レッサー)の対応としては、航空機の運航者(エアライン)に対し、短期的な問題点、財務上の制約、関係国政府等からの資金援助を求める努力等を詳細に記載した質問票への回答を求め、それを元に所有者(レッサー)がその要請を状況に応じて適切な解決策を検討する必要があります。
不可抗力(force majeure)条項における悪名高いhell or high water条項については既に議論されてますが、hell or high water条項は、リース料やその他の支払いを継続する航空機の運航者(エアライン)の義務は絶対的であり、航空機全損(total loss)のような交渉を経て共通認識となったカーブ・アウト案件のみに適用されます。多くの契約条項は世界的な航空機の運航便停止(例えば、ボーイング737MAXが運航停止となったトラブル事例)となった事態や今回の新型コロナウィルスの感染拡大のようなパンデミックによる事態をカバーしているとはいえません。最近の事案から、今後航空機の運航者(エアライン)が新たな契約交渉においてリスク配分に注意を払う必要があることは疑いようがありませんが、既存の条項をめぐる議論は、時間と費用の浪費となるでしょう。所有者(レッサー)および抵当権者(レンダー)と協働して、商業的に理にかなった代替的な契約合意へと方向転換した方が、はるかに有効な時間となるでしょう。
多くの不可抗力条項は「パンデミック」のカバーなし
同様に、リース取引やファイナンス取引における不可抗力条項に言及すると、多くの債務者は、一般的な既存の契約書に基づく限り袋小路に追い込まれる可能性があります。契約上の明示的な規定がない限り、英国法もニューヨーク州法も、当事者の支配が及ばない事由による義務の履行を免除しません。これは、一部の航空機の運航者(エアライン)が自国の法律に依拠しようすることを排除するものではありませんが、具体的な契約条項に優先されるものではありません。原則的には、不可抗力は一般的に支払義務を免除するものではなく(多くの契約書には必ずこれが含まれていますのでご確認ください。)、不可抗力条項を発動しようとする航空機の運航者(エアライン)は、この点を考慮する必要があります。これらの条項の多くは、通常パンデミックをカバーしておらず、MAE条項(重大な不利益変更)と同様に、これらは「あったらうれしい」規定ではありますが、慎重な評価が必要になります。一般論としても、不可抗力条項は通常、裁判所によって狭く解釈されており、不可抗力事項が存在することを証明する責任は、通常、不可抗力条項を行使する側にあります。航空機の運航者(エアライン)は、代わりに利害関係者(所有者(レッサー)および抵当権者(レンダー))とのコミュニケーションにエネルギーを使うことが求められます。
航空機の運航者(エアライン)が、条項の違法性や後発的履行不能の原則(doctrine of frustration)を主張して支払いを回避できるかどうかについては、絶対にあり得ないとは言えませんが、これらの条項の典型的な趣旨と範囲に基づく限り、裁判所が、新型コロナウィルスの影響のためリースまたはローン契約の履行を違法と判断することは非常に考えにくいといえます。同様に、債務者が、提供されたリースまたはローンに対し、法律上支払い不可能になったことを裁判所に対し十分に説得できる可能性は極めて低いと考えます。英国法およびニューヨーク州法の裁判所は歴史的に、契約上の後発的履行不能を主張する際には非常に高いハードルを設けており、近い将来この状況が変化するとは考えられません。
更なる債務不履行の可能性については、契約に組み込まれている財務コベナンツのテストが、企業が経営困難に陥っている可能性を示す早期の指標を提供しています。一般的には、抵当権者(レンダー)が異議申し立てや重要性の要件等を証明する必要なしにデフォルトに該当する可能性があります。利益の喪失や航空機の価値低下は、財務コベナンツの遵守に悪影響を及ぼす可能性があります。このことを念頭に置いて、借り手(ボロワー)は、かかる財務コベナンツに違反する恐れがあるかどうか、また、財務コベナンツ等の違反となる場合はこれを軽減するためにどのような選択肢があるかについて、一刻も早く予測と対応策を立てる必要があります。繰り返しになりますが、混乱したままの現状においては、抵当権者(レンダー)との迅速な対話や建設的なアプローチが、最も重要な対策となるでしょう。
財務コベナンツテストだけでなく、インフォメーションコベナンツ(航空機の運航者(エアライン)または借り手(ボロワー)が、所有者(レッサー)または抵当権者(レンダー)に対し重要な出来事があった場合に通知を義務づける条項)も重要になります。特に、運航停止の状態なのか、そうであれば、航空機はどこに保管されているのか、運航停止のリスクは適切に補償されているのかという情報を提供する必要があります。長期的なエンジンメンテナンスのトータルケアを提供する契約がある場合には、航空機の運航者(エアライン)はその契約に基づいて第三者に支払いを行っているのか、あるいは、所有者(レッサー)または抵当権者(レンダー)はバックアップとして代替的な契約を検討する必要があるのかおよびその契約に実用性があるのか等が最大の懸案事項となります。
利害関係者は「最悪のシナリオ」も想定しておくべき
「団結すれば立ち、分裂すれば倒れる」(united we stand, divided we fall)というのが私たちが最初に示したモットーです。いまの状況においては、コラボレーションと継続的なコミュニケーションが不可欠です。しかし、利害関係者は、最悪のシナリオも想定しておくべきでしょう。もし、リポゼッションを行わざるを得なくなった場合には、手続の準備のスピードが非常に重要になります。所有者(レッサー)または抵当権者(レンダー)としては、リポゼッションの意思決定や準備が遅くなればなるほど、リポゼッションが失敗に終わるリスクが高まるものであり、航空会社(エアライン)にデフォルトが発生した場合等の有事の際に依頼できる経験豊富な弁護士と平時から十分な関係性を構築しておくことは不可欠です(詳細は私たちのレポゼッションに関する記事をご参照ください)。
松下 オリビア
ピルズベリー・ウィンスロップ・ショー・ピットマン法律事務所・外国法共同事業
笠継 正勲
ピルズベリー・ウィンスロップ・ショー・ピットマン法律事務所・外国法共同事業
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