会社の節税術として、お金を支出して経費を創造し、一時差異を生む「繰り延べ」はよく知られています。しかし、同じ繰り延べでも、LLPを利用した節税術はそれとは異なるものです。具体的な手法と活用事例を見ていきましょう。本記事では、知る人ぞ知るスキーム、課税されない組織(ビジネスのための箱)を作って利益を参加者で自由に分配できる「LLP(有限責任事業組合)」の活用を紹介します。AXESS総合会計事務所の代表税理士・阪口雅則氏が解説します。

LLPによって「1事業年度=23ヵ月」になる!?

では具体的に、LLPではどんなことができるのでしょうか。

 

まず法人の場合、原則として1年間の利益を、決算期末から2ヵ月後までに納税する必要があります。その結果、事業活動から生み出された利益の約30%(※税率は目安)は、税金としてすぐに消えてしまいますので、ビジネスに資金を再投下する時間的余裕がありません。

 

 

ここで、経営者が手掛けるビジネスを「LLPを通じて行う事業」と「株式会社で行う事業」の2つに分けてみたいと思います。

 

 ①LLP事業 

利益が不確実・不安定だが、うまくいけば大きな収益が生じるビジネス(M&A仲介など手数料ビジネス)

→ LLPの決算期末を12月末とします。そして、上述の例と同じく1年間の事業活動で20の利益が残ったとします。

 

 ②株式会社事業 

従前より行っている、継続的安定収益となる基幹事業

→ 株式会社の決算期末を11月末とします。株式会社はLLPの組合員として、12月末に20の利益分配を受けます。

 

 

この株式会社側では、2022年11月期(2021年12月1日~2022年11月30日)がスタートして間もない2021年12月31日に、LLPから利益20(税引き前の利益)を受け取ることとなります。

 

その結果、20の利益は11ヵ月間(2022年11月末まで)課税を受けることなく活用が可能となります。課税を受けるまでに生じる時間的余裕により、「株式会社側の販売促進費用」「株式会社側の経営者の役員報酬や役員賞与(一定の事前届出で経費化可能)」といった活用が可能になります。

 

いずれにしても、「税引き後利益14(税金△6:利益20×30%〈中小企業の税率の目安として〉)」ではなく、「税引き前利益20」を有効活用できることは、経営者にとって魅力的ではないでしょうか。

事業を二層化し、事業年度を23ヵ月に引き延ばす

上記の「②株式会社事業」の図の例では、LLPの事業年度開始が2021年1月で、LLPから利益分配を受けた株式会社が決算を迎えるのが2022年11月となります。すなわち、事業を二層化することで、事業年度を23ヵ月に引き延ばすことが可能となります。

 

LLPは1社(人)では組成できないため、2社(人)以上で仕組みを作る必要がありますが、今回LLPの課税の繰り延べ効果を分かりやすく説明するため、LLPの組合員を1社のみとして解説しました。

 

法人税率は、昨今の国際的な引き下げ競争から、コロナ禍を経て引上げに向かう兆しも見えはじめています。また、税負担の大小は、経営上非常に重要な要素となります。

 

「事業年度は12ヵ月」という既成概念を、LLPで壊してみてはいかがでしょうか。

 

 

阪口 雅則

AXESS総合会計事務所 代表

 

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