オークション会場には物々しい雰囲気が漂っていた
司会「3万8,000円のお客様いらっしゃいませんか」
(電話参加者の入札。電話をつなぐ会場担当者が75番のカードを上げる)
司会「3万8,000円テレフォン。3万8,000円のお客様が権利を持ちます」
(すると間もなくインターネットライブから入札者が現れる)
司会「3万9,000円ライブ。次は4万円」
(電話で再度入札)
司会「4万円ビッド。次は4万1,000円」
司会「新しいお客様が入りまして次は4万2,000円でライブ」
(競り合いが続く)
司会「……閉めます。4万9,000円。4万9,000円。ラストコール。4万9,000円で75番の方が落札されました」
※※※※
初級投資家かめぞーが今回訪れたのは、品川プリンスホテル。本日開催される日本コインオークションに参加するためだ。
日本コインオークションでは、希少価値の高いアンティークコインを狙って世界各国の富裕層が集う。昨今、ネットオークションの発展やコレクターの増加によってアンティークコイン購入の競争が激化している。アンティークコインは再生産されることがないため、競りの激しさも増す一方だ。
今回のオークションでは
●会場での直接入札
●事前のメール入札
●電話ライブ入札
●ネットライブ入札
が可能だ。冒頭に記したのが実際のオークションの掛け合いになる[写真1][写真2]。
さっそく入札してみたら…いきなり地獄の一騎打ち
まずかめぞーが狙ったのは、「フェルディナント3世 10ダカットコイン」。神聖ローマ帝国で超特権階級のみが手に入れられるコインであった。比較的数は多いが、今回の一品は状態が非常に良い。大谷代表いわく、「ここまで綺麗なのは滅多にありません」。
事前入札も重なり、当日はなんと1,700万円でスタートした。オークション価格は50万円単位で値上がりする。
我先にと入札カードを上げたかめぞーの前に、強敵が現れた[写真3]。
司会「1,800万円、ニュービッター1,850万円、1,900万円いかれますか? 1,900万円! ……1,950万円、2,000万円」
あっという間にその価値は300万円も跳ね上がった。再度カードを上げるかめぞー。2,000万円に達した時点で、落札単位が100万円ずつになる。
あまりの値段に会場は静観ぎみ。入札者は2人きりと、いきなりの一騎打ちとなった。結果は……[写真4]。
司会「2,400万円。2,400万円。2,400万円で、37番のお客様、(落札)ありがとうございます」
残念、落札ならず。
かめぞー「37番さん、カードを下げる様子がないんですね。上げっぱなしで、絶対落とすという意思を感じました」
前回の投資チャレンジでは土地値物件(約1億5,000万円)の購入を即日決めたかめぞー。その勢い、持続するかと思ったが……凄まじいコインオークションの熱気に怯む。
かめぞー「このまま値段が上がり続けたらさすがに家を売らないといけなくなるんで……」
かめぞー「引こうかなと判断しました」
【早すぎ】レオポルト1世10ダカット、40秒の爆速決着
次にかめぞーが狙うのはロットナンバー56番「レオポルト1世 10ダカットコイン」。スタート価格1,500万円とまたもや高額な一品だ。
こちらは、神聖ローマ帝国の皇帝レオポルト1世(在位:1658年~1705年)のコイン。特に希少とされる若いころの肖像で、残存枚数は極めて少ない。このオークションに出てきたコインは状態も程良く逸品といえる[写真5]。
司会者「スタート価格が1,500万円です」
オークションスタート。真っ先にかめぞーがカードを上げる。1,550万円。間髪いれず追加入札が入った。1,600万円。
引かないかめぞー。追うようにカードを上げた。1,650万円。
司会「現在1,650万円で11番のお客様が権利をお持ちになっています」
11番=かめぞー。すると3ターン目にして、カードの上がる手が止まった……!? 会場に緊張が走る[写真6]。
司会「……大丈夫でしょうか。それではラストコールかけさせていただきます」
司会「1,650万円。1,650万円。ラストコール。1,650万円でフロアのお客様、(落札)ありがとうございます」
ものの40秒弱。かめぞー、あっという間に1,650万円でアンティークコインを買い上げた。実際にはオークション手数料が10%、この手数料には消費税10%がかかるため計11%がオンとなる。これらを合わせた支払い総額は1831万5,000円だ。先ほどの「フェルディナント3世 10ダカットコイン」よりは安価だが、それでもなお超高額落札となった。
太っ腹の域を超えている。直後のかめぞーに話を聞いた。
かめぞー「迷いはありましたけれども、思い切って行ってみようと。あくまで投資ですので、このあとどう値段が上がっていくかが大事かなって……」
かめぞー「実際オークションに参加する前は意気込んでいたんですけど、なかなか大きな金額ですから、いざ落札できると『なんとか入手できたぞ』という喜びと『本当に良かったんだろうか』という思いが……。正直心の中が交錯してる状況ですけれども、希少な1枚であることは間違いないと思っていますので……。インフレヘッジにもなりますし、あるいは価値が見直されて、値段が上がっていくことを期待しようかなと……。まあ今回のアンティークコイン投資チャレンジはこれにてお終いということで、ありがとうございました」
【後日談】満身創痍かと思ったら追加落札していた
こうしてオークションは終了したが、そもそも、「アンティークコイン投資」とは何か。
投資対象としての歴史は長く、ヨーロッパの人々は2000年もの大昔から資産の保全(物価の上昇に備えるインフレヘッジ)目的で、金などの貴金属から鋳造されているアンティークコインを保有してきた。インフレが発生して貨幣(お金)の価値が下がっても、現物である金などの貴金属の価値は相対的に上がるためだ。
日本でも一部のコレクターが収集していたが、希少性やデザインの美しさなどから、アンティークコインの需要は拡大し続け、売買の際にインフレヘッジ以上の値上がり益まで期待できると認識されるようになり、広く世界中で投資対象として人気を集めるようになった。
冒頭でも述べたが、ネットオークションも発展し、その市場は過熱の一途をたどっている。「この波に乗らない手はない」と1,650万円(手数料等込みで1831万5,000円)ものアンティークコインを買い、憔悴していた様子のかめぞーだったが、後日とんでもない事実を伝えてきた。
かめぞー「実は当日の夜、ネットライブでも参加してみまして、スイスのルツェルン12ダカットコインも落札しました」[写真7]
スイスのルツェルンの12ダカットコイン。現在世界に1枚しかなく、今回のオークションカタログの表紙にもなっている極めて貴重なコインだ。表面には司教が雲の上から街を見下ろす姿、裏面には協会・司教・騎士が並んでいる様子がそれぞれ描かれている[写真8]。
同じような町の風景(シティービュー)、10ダカットのコインでも現存するものが10枚程度であれば2000万円から4000万円ほどになることも多いという。今回の出品コインはもっと大きい12ダカット。オークションのスタート価格1400万円という代物であった。
落札価格2,600万円。手数料等込みで2,886万円だ。先ほどのレオポルト1世(手数料等込みで1831万5,000円)と合わせると総額4,717万5,000円。勢いが良すぎないか……と不安になる一同であった。
GGO編集部