ロングアイランドで安定した入居者が確保できる理由
今回の視察は、ニューヨークの現地不動産会社・リダック社の協力のもと実現した。視察したのは、ニューヨーク郊外のロングアイランド、ニューヨークの中心となるマンハッタン島の物件である。
ニューヨーク郊外と中心地という二つの地域の物件を視察することで、ニューヨークの不動産事情を広く把握するとともに、それぞれの周辺環境なども感じ取ることができた。今回の現地レポートでは、物件データだけでなく、環境や利便性なども具体的に紹介していきたい。
午前9時、チャーターしたバスに乗り込み、物件視察に向かう。今回の物件視察のスケジュールは、午前にロングアイランドの物件を3件、午後にマンハッタン中心地の物件を3件というものだ。まずは、ホテルがあるマンハッタンから東に位置するロングアイランドへ。
1件目は車で約40~45分。午前中に視察する3件は、いずれもロングアイランドのプレーンビュー(Plainview)に位置しており、そこには日本を代表する企業のひとつ、Canonがある。日系の駐在員に確実な賃貸需要があるため、安定した入居者の確保が見込める地域でもある。
【図表1 マンハッタン島地図】
ロングアイランドの物件視察では、リダック社の水谷百合子氏にご案内いただいた。
1件目の物件は、広さが1,148Sqft、間取り3ベッドルーム、2バスルーム。物件価格$530,000で、家賃収入$3,000/月の戸建住宅である。
●1件目
【物件概要】
物件価格:$530,000
家賃収入:$3,000/月
固定資産税:$11,350/年
タイプ:戸建住宅
間取り:3ベッドルーム、2バスルーム
面積:1,148Sqft
建築年:1954年(築62年)
建物割合:80%
償却年数:4年
償却年額:$106,000(初年度)
リビングの隣は書斎のようなスペース。ここは事務所として使用されていたが、リフォームを行い、天井に天窓を設置して日差しが差し込むように工夫し、その奥にあるガレージ部分も居住用スペースに改築してある。
物件の概要を見ると、高い固定資産税が気になるところだ。こうした金額になる理由は、教育関連の「学校税」が要因のひとつである。アメリカの教育費の一部は、学区ごとの住民から納められる固定資産税で賄われ、学区に住む全ての住民に課税が義務付けられる。そのため、子供がいない家庭でも支払う必要がある。
アメリカでは、学区の教育レベルが高いところほど、住みたいという需要が増え、それが不動産地価の引き上げにつながり、固定資産税の増加につながる。それがまた教育水準の引き上げに寄与するという構図だ。視察物件は、上位にランキングされる学区に所在しているため、周辺の環境も良い。
2件目の物件は、広さが1,101Sqft、間取り3ベッドルーム、2バスルーム。物件価格$550,000で、家賃収入$3,100/月の戸建住宅である。
●2件目
【物件概要】
物件価格:$550,000
家賃収入:$3,100/月
固定資産税:$12,108/年
タイプ:戸建住宅
間取り:3ベッドルーム、2バスルーム
面積:1,101Sqft
建築年:1959年(築57年)
建物割合:80%
償却年数:4年
償却年額:$110,000(初年度)
キッチン周りの冷蔵庫やオーブン、電子レンジ、水周りの洗濯機や乾燥機は備え付けがほとんどで、壊れたらオーナー負担で修理する。
3件目の物件は、間取り3ベッドルーム、2バスルームで、物件価格$538,900の戸建物件である。
●3件目
【物件概要】
物件価格:$538,900
固定資産税:$12,110/年
タイプ:戸建住宅
間取り:3ベッドルーム、2バスルーム
建築年:1951年(築65年)
この地域では、主に平家で地下室があるのが主流のため、2階建ては珍しい。もっとも、家のスタイルは地域ごとに違い、他の地域のウェストチェスターでは、逆に2階建てが主流だという。
この地域では、地下がない物件は価格が少し安くなる傾向にある。最近のトレンドでは、かつて主流であったDIY前提ではなく、最初から綺麗に直された物件が好まれ、購入される傾向にある。そのため、多くの投資家はリフォームを行っている。
マンハッタン&近郊で注目の5つの開発エリアとは?
午後0時、3件の物件視察が終了。ロングアイランドからマンハッタンへと戻り、マンハッタンの景色を一望できる高層マンションのラウンジでランチ。
リダック社の代表取締役・七原肇氏の挨拶のあと、住宅部門バイスプレジデントの川上恵里子氏より、ニューヨークの不動産市況や、今後、開発が進み、投資対象として期待されるエリアの特性などについて説明していただく。
マンハッタンの強みのひとつは、ありとあらゆるインフラが全て整っていることだ。特に、マンハッタンを基点に鉄道網が張り巡らされており、それが米国全土につながっていく。この基点というポジションは今後も変わらないのである。そんなマンハッタンで注目を集めているのは、以下の5つの開発エリアである。
【図表2 マンハッタンで開発が進む5つのエリア】
①ビリオネアーズロー
セントラルパークの南側に位置するエリア。坪単価は2000万円以上で物件最低価格は5〜100ミリオンドル。
②ハドソンヤード
近年急速に開発が進んでいるエリア。2024年には、2.4兆円の開発費をかけて16棟のビルディングが建つ。日本の三井不動産もプロジェクトに参加している。
③ルーズベルトコーネル
特に前市長の時代にコーネル大学のテクノロジー部門を誘致したこともあり、マンハッタン近郊の住宅地として近年、開発が進んでいる。
④ロングアイランドシティ
地下鉄で通える、マンハッタン島を出たあたりの人気のエリア。
⑤ウイリアムズバーグ
ブルックリンの中でも特に人気のエリア。トレンディーな場所で若者に人気が高まっている。
各所で大開発が進む中であるが、マンハッタンではやはり、オフィスやミッドタウンに徒歩で通えるエリアなど、通勤の利便性が高い場所が常に人気ということだ。
ニューヨークの不動産市況だが、2008年のリーマンショックでは、アメリカの20都市平均で中間インデックス価格が30%下落したのに対し、リーマンショックの「震源地」であったマンハッタンは、11%しか価格が下落しなかった。空室率に関しても2015年時点の全米の空室率は7.1%であるが、マンハッタンは1.54%と、圧倒的な空室率の低さを維持している。
賃料水準についても、リーマンショック時に一旦下がったが、翌年には同じペースに戻り、現在も右肩上がりを続けている。最近では、10億、20億といった大型物件の売買についてややスローダウンしているが、貸しやすいスタジオやワンベットタイプの小型物件は投資家の人気も変わらず高いという。