会社経営する上で避けて通れない、収益確保の問題。ビジネスで利益を出すのはもちろんのこと、そこからいかに節税して手残りを大きくするかは、経営者の永遠のテーマであるといえます。節税手法には様々なものが存在しますが、本記事では、非課税となる組織「LLP(有限責任事業組合)」を作り、利益を参加者同士で自由に分配する、知る人ぞ知るスキームを解説します。AXESS総合会計事務所の代表税理士・阪口雅則氏が解説します。

 

 ●LLPのメリット 

 

①出資額を上限とする有限責任制である

 

個人事業主やLLPに似た民法組合(任意組合)は無限責任を負います。それに対し、LLPは出資額を上限とする有限責任ですから、万が一のときにも安心だといえます。ただし、不法行為や重大な過失があった場合は、その当事者はLLPの出資額の限度に守られることなく、損害賠償責任を負うことになるため注意が必要です(LLP法第17条、18条)。

 

②損益の分配や議決権の設定など、内部自治の自由度が高い

 

損益の分配や議決権の設定など、組合員間の合意を前提に自由に設定が原則可能です。ただし、税務上は親族や同族会社など利害関係者間の作為的な損益分配は認められませんので、注意が必要です。

 

③構成員課税(パススルー課税)である

 

上述の通り、LLPは課税が生じません。組合員が出資割合に縛られることなく、合意された損益分配割合により、損益の分配を受けて個々申告納税を行うことになります。そのため、共同で事業を行い、その成果(利益)を各組合員に還元させるには、柔軟性に富んだ最適な組織体といえるでしょう。

 

ただし、LLP内に利益をプール(留保)することはできません。また、LLPの決算期末には、損益のすべてを組合員に分配しなければなりませんが、実際に利益を現金として分配するか否かはまったく関係ありません。この点はよく勘違いされるポイントです。

 

➃登記が可能であり、かつ登記内容がシンプルである

 

LLPは登記が義務ですが、それにより、第三者から組織体としての認知・信頼を得ることが可能となり、ビジネスにもプラスに働くと考えられます。また、登記内容には出資額が含まれないため、出資金の増額や減額の際、登記する手間が省けます。

 

あまり知られていませんが、株式会社や合同会社は法務局に登記申請した日が設立日となるのに対し、LLPの場合はLLPの組合契約書上に定めた設立日、あるいは定められた出資金がすべて払い込まれた日の、いずれか遅い日が設立日となります。法務局に登記申請した日ではないので、元旦を設立日に定めることも可能です。株式会社や合同会社では、土日祝日は法務局が閉まっているため、元旦の設立はできません。

 

⑤個人組合員の場合、社会保険負担が生じない

 

会社組織の場合、経営陣(役員)は役員報酬として収入を得るのが普通です。その際には必ず、社会保険料負担が個人・法人の双方に生じます。金額は、大まかにいうと役員報酬に通勤手当を足した金額の約30%(個人、法人ほぼ折半)です。一方、LLPの経営陣(組合員)の場合は、LLPから給与をもらうのではなく、個人の事業所得となるため、個人事業主と同じ国民年金と国民健康保険に加入することになります。

 

将来の年金受給に影響が生じる点は否めませんが、LLPであれば健康保険料と年金保険料負担を軽減することができます。


 ●LLPのデメリット 


①法人格がないことにより、金融機関の口座開設等に制約も

 

法人格がなく「権利や義務が帰属する主体とならない」という点は、税金面ではメリットですが、運営面ではデメリットも伴います。

 

[図表2]法人格がないことに伴うデメリットの例

 

②無限責任を前提としている事業など、利用できないケースもある

 

弁護士、公認会計士、司法書士、土地家屋調査士、行政書士、税理士、社会保険労務士、弁理士等士業は、無限責任を前提としているためLLPの共同事業として行うことができません。またギャンブル(宝くじ、競馬、競輪など)を共同で行う目的でLLPを組成することもできません。

 

③内部自治の自由がアダとなり、収拾がつかなくなるリスクも

 

メリットとして上述した運営の自由な取り決めが可能という点は、逆にいうと、組合員間で意見がまとまらない限り意思決定ができないといったデメリットにも繋がります。また、組合員の加入は総組合員の同意が必要であり、組合員の脱退はやむを得ない事情がなければ原則不可能という、なかなか恐ろしい法律の建付けになっています。とはいえ、脱退については組合契約書に任意脱退のルールを規定すれば大丈夫ですので、その点はあらかじめ決めておきましょう。

 

➃組合員の加入や脱退があるたび、登記が必要に

 

登記内容がシンプルで簡単である点をメリットとして上述しましたが、問題もあります。組合員の加入・脱退があると、その都度登記が必要になるのです。そのため、組合員の数が多いLLPは大変です。また、株式会社や合同会社であれば代表者のみ自宅住所が記載されますが、LLPの組合員の場合、全員自宅住所が登記事項として記載されてしまいます。

 

⑤原則、プロ投資家以外は投資事業に利用不可

 

LLPを使って投資事業を行いたいと考える方は多いのですが、共同事業というより「運用側と投資家」という構図になってしまうと、金融商品取引法上の規制(募集・私募、運用)を受けることになるため、違法性が生じます。適格機関投資家等特例業務としての届出が可能な場合を除き、投資事業には使えないと考えたほうが無難です。

経営者から見た、LLPの最大の魅力とは?

LLPの最大の魅力は、登記できる組織でありながら、構成員課税(パススルー課税)になる点につきます。実は当初、政府には「LLP」ではなく、法人格を有する組織体として「合同会社(LLC)」を構成員課税にするという思惑がありました。

 

しかし、経済活性化という見地から立法を目指す省庁と租税徴収を担う省庁で足並みが揃わず、苦肉の策として、民法組合(従前より構成員課税)と同じ性質を持ちながら、有限責任制と登記可能という機能を備えたLLPが誕生しました。

 

上述の通り、法人格がないことによる不自由さはあるものの、登記される組織体で有限責任かつ構成員課税という特徴は十分魅力的です。LLPの特性を理解しつつ柔軟に活用することで、ビジネスの可能性も広げることができるでしょう。

 

 

阪口 雅則

AXESS総合会計事務所 代表

 

 

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