『つばめグリル』が最初にエスプレッソマシンを導入
筆者が調べた範囲で、日本でもっとも初期に本格的なエスプレッソマシンを導入したのは、『つばめグリル』です。創業は戦前の1930年。名前は、同じ年に登場した旧・国鉄の特急列車つばめに由来しています。
『つばめグリル』といえば、1974年に登場したアルミホイルで包んだハンバーグステーキ「つばめ風ハンブルグステーキ」で知られています。欧風料理を提供するお店なので、コーヒー=エスプレッソというヨーロッパの伝統を踏まえて、エスプレッソマシンを導入したのでしょう。
『つばめグリル』に初めて入ったのは、スイスのEGRO(エグロ)というメーカーのマシンでした。ただし、当時の日本では、まだ物珍しかったエスプレッソマシンは実用品としてよりも一種のインテリア扱いされており、実用面でもエスプレッソを抽出するより、おもに蒸気でワインを温めるために用いられていました。
筆者が個人的にエスプレッソを生まれて初めて自分で注文して飲んだのは、中学生時代。1980年前後です。エスプレッソが飲みたかったのではなく大人への扉を開きたかったのがエスプレッソを飲んだきっかけです。
中学生時代の筆者はジャズに魅了されていて、背伸びをして渋谷にあった『メアリージェーン』というジャズ喫茶に入り浸っていました。この店は、壁にアンソニー・ブラクトンやジョセフ・ボウイ、ヘンリー・カイザーといった海外の著名なミュージシャンの直筆サインが書かれていました。
そこで筆者はメニューに「メアリージェーンスペシャル」という見知らぬ飲み物を見つけ、どんなものだろうと思って注文してみました。
恐る恐る注文すると「30分くらいかかりますが、よろしいですか?」と店員さんに確認されました。「泡立ちコーヒー」という表記もなければ、もちろん「エスプレッソ」という表記もなかったのですが、思い返すと小さなエスプレッソマシンが置いてあり、店主が面倒くさそうにマシンを操作してコーヒーを淹れていました。
待っていると30分後に出てきたのは、キンキンに冷えた銅製のショットカップに入った濃厚なコーヒーでした。それにガムシロップをガンガン入れて、我慢して飲み干した記憶があります。エスプレッソ専用の豆も手に入らない時代、ただ苦い濃いエスプレッソもどきのドリンクを、氷で器ごとキンキンに冷やすのに30分ほどかかったのです。それは、この珍しい飲み物を美味しく提供するための店主苦肉の演出だったのでしょう。
まだ中学生でコーヒーも飲み慣れない筆者にとって、大人たちに混じってジャズを聴きながらエスプレッソもどきを飲んだのは強烈な体験でしたが、むろんのちに自分がエスプレッソ専門店を経営するようになるとは1ミリも想像もしていませんでした。
思い出の『メアリージェーン』は創業1972年の老舗でしたが、現在進行形の渋谷の大規模再開発のあおりで2018年に惜しくも閉店しました。
齊藤 正二郎
ダブルトールカフェ 代表
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】