医学部を志望する女子学生が急増している。しかし大学入試では女性受験生への組織的な減点操作が発覚したり、女医の働き方に大きな変化が訪れていたりと、女性の医学部進学は前途多難だ。受験という「入り口」の時点で、その後の人生が大きく変わる時代となった。「もし娘が医学部に行きたいと言ったなら…」。元医大講師で受験の裏表を知る筆者が、一筋縄では行かない「女性の医学部受験」を語る。※本記事はフリーランス医師・筒井冨美氏の書下ろしによるものです。

進学させるなら?「首都圏私立」vs.「地方国公立」

前回の記事『もし娘が医大を目指すなら…「数学力」アップが不可欠な裏事情』(関連記事参照)では、前編として女性の医学部受験をめぐる諸問題と、数学力の重要性について解説した。後編では、主に高3以降の受験校選定などについてまとめてみた。

 

国公立医大の総学費は「6年間で約400万円」であり、人気が高い。しかし「一県一医大」政策によって、人口比では地方に多く首都圏には少ない。

 

「総人口370万人の四国に国立医大4校」に比べて「総人口3600万人の一都三県に国公立医大5校」と、「人口比で約8倍」という「一票の格差」どころではない大差があるが、是正の見込みはない。というのも、「一都三県に私立医大が16校(四国ゼロ)」と集中しているからである。

 

よって、首都圏高校生が医学部を目指す場合、「東大医学部も射程圏内」のような超高学力層を除けば、「首都圏私立医大」か「下宿して地方国立」を選択することになる。

 

私立医大最安値の国際医療福祉大学(千葉県成田市)においても総学費は約1900万円であり、下宿の経済的負担を加味しても地方国立医大の方がリーズナブルである。

 

しかしながら、地方の医師不足は深刻だ。「県立」「市立」などの地方公立医大は当然、国立医大においても「卒業後に母校に残って、地域医療に貢献するか」は「小論文や面接などでチェックされる」と考えるべきである。

 

「東京生まれ東京育ち」で医大のある県に無縁の女子高生は、「卒業したら速攻で東京に戻りそう」と警戒されて、面接などで排除されがちだ。「親の出身県で祖父母が住んでいる」「(山梨大などで)登山が趣味」「(山形大など)スキーが好き」など、面接で「地域に馴染んでいく」と主張できるアピールポイントを見つけておくことが望ましい。

 

あるいは、「女の子は学費がかかっても親元が安心」と私立医大を選択する家庭も多いが、「東京の私立医大」ならではの誘惑も存在する。周囲には富裕層子弟が多く、新宿区など歓楽街が近い立地の医大も多い。潤沢な仕送りを受けて派手に遊び過ぎて留年を繰り返すグループが、たいていの都内私立医大には存在している。

 

我が子が「誘惑に弱そう」と思うならば、首都圏内でも「埼玉医大(埼玉県毛呂山町)」「北里大(神奈川県相模原市)」のような、誘惑の少なそうな医大をすすめるのもアリかもしれない。

「女の幸せ」を望むなら「地域枠」は不向き

地方の医師不足解消の切り札として、近年は「地域枠」と称する「県内の指定病院に卒後9~11年間勤務することを条件に、小論文・面接などで地域医療への意欲を判定し、学力に加味する」枠を設ける地方医大が増えている。

 

2018年の東京医大騒動を経て「地域枠内においても男女差別は厳禁」と定められたので、女子学生が大幅減点されるリスクは低くなった。

 

しかしながら、特に出身地ではない地域枠を受験する場合、面接などで「義務年限を順守できるか」を厳しく追及されることが多い。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

地域枠義務年限の9~11年間は、ストレート合格者でも「24~35才」という女性の結婚・出産のゴールデン期間とモロに被ってしまう。それでも男性医師は看護師・薬剤師・医局秘書も婚活対象となるが、女医が「夫は自分と同等以上」を婚活条件にするならば地方で医師レベルのハイスペック男性に出会うことは困難だ。

 

また、地域枠医師は県庁所在地以外の僻地出向を命じられるケースも多いし、若手医師は何かと病院に拘束される時間も長い。

 

それでも女子医大生3割時代ならば医大や病院内での夫探しは比較的容易だったが、5割超も予想される時代ならばフリーのまま卒業する女性も多くなるだろう。フリーな女医が結婚適齢期のうちに「高学歴で温厚で…」という優良案件と出会うには、地域枠が婚活の足枷になってしまう可能性が高い。

「足抜け」が困難に…地域枠受験は「覚悟」が必要

平成時代には「地域枠医師の指定地域での勤務」が紳士協定であり「奨学金返金」以外のペナルティがなかったため、「夫の転勤」「親の介護」などを理由に地域外に転職する、いわゆる「足抜け」と呼ばれる義務年限の中途放棄が後を絶たなかった。

 

そこで厚労省は、2019年からは「足抜けした地域枠医師を雇った病院には、補助金減額」という荒業に出た。更に2020年には、「足抜けした元地域枠医師は、専門医資格が得られない」というルールを追加しており、今後も更に厳しいルールが追加される可能性が高い。

 

よって「偏差値低めの地域枠で地域医療への熱意をアピールして入学し、医大卒業すれば『家庭の事情』をアピールして東京に戻る」という作戦は、「今後は失敗に終わる確率が高い」ことを覚悟したうえで、地域枠に応募すべきである。

「浪人して医学部」か「現役で歯学部」…選ぶべきは?

医学部受験生が併願する他学部として多いのが歯学部であろう。「医学部全滅だが歯学部には合格した。浪人して医学部か、現役で歯学部?」とは、春先によく聞く悩みである。アイドルグループSKE48メンバーで歯科大学生の矢作有紀奈も、東京医大騒動に関連して「医学部不合格後の歯科大進学」を公表していたが、2018年には「学業に専念」を理由に引退している。

 

個人的には「医師になるなら生涯独身も覚悟する」キャリア派ならば「浪人して医学部チャレンジ」、「やはり女の幸せも欲しいよね」タイプならば現役歯学部進学をおすすめしたい。

 

というのも、「浪人してギリギリ新設医大」レベルの学力の女医が、「結婚・出産・育児」のようなライフイベントに時間やエネルギーを割くと、結局のところ「平日昼間のローリスク仕事限定」のような「ゆるふわ女医」に堕ちてしまうケースが非常に多いのだ。

 

「健康診断」などの「ゆるふわ女医向けバイト」の単価は下がる一方で、東京都内では「歯科医の平均時給以下」案件も出現している。「当直しない女医」の待遇も下がる一方だが、歯科医ならば「当直しない」ことを理由に肩身が狭くなることはない。コロナ禍でオンライン診療が大幅解禁されたし、AIによる健康診断が解禁されたら「ゆるふわ女医」の存在価値は更に低くなりそうだ。

 

一方、歯科医は仕事の性質上オンライン化が困難だし、自宅で開業も容易である。「家庭と両立できる専門職」としては、悪くない選択だと私は思う。

 

「医師夫をゲットしたい」ならば「昭和大」や「岩手医大」などの医科歯科が隣接するキャンパスの歯学部や、「医学部付属病院の口腔外科に研修医として就職」等の婚活戦略もある。また、お見合いでも「男性医師/歯科医」の格差は大きいが、女性はむしろ「女医は勝気な人が多く、歯科女医が気楽」と言う男性医師もソコソコ存在する。また、1年でも若い方が女性の婚活に有利なのは言うまでもない。

 

人生の選択肢の一つとして、考えておきたい。

 

 

筒井冨美

フリーランス医師

 

 

 

 

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