すさまじい勢いで高齢化が進展する日本。それだけ多くの相続が日々発生しているといえます。しかし、そこで注意が必要なのが「認知症」の問題です。被相続人が認知症だと相続対策が立てられない恐れがあり、相続人が認知症だと遺産分割協議書が作成できず、節税を実現できる各種特例を適用できなくなる恐れがあるのです。具体的な内容とリスクについて、不動産と相続に詳しい宮路幸人税理士が解説します。

もはや認知症は「自分ごと」として考えるべき時代に

高齢化社会が急激に進展し続ける日本では、認知症を発症する人の人数も年々増加しています。厚生労働省の資料によると、2012年時点ですでに、65歳以上の15%が認知症を発生しており、実に7人に1人の割合となっています。また、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年には、65歳以上の方の認知症の割合が5人に1人になると見込まれており、高齢者本人、あるいは高齢者を見守る家族にとって、もはや認知症は「自分ごと」として考えなければならない状況となっています。

 

本記事では、被相続人や相続人のうちに認知症を発症した人がいる場合、どのような問題が起こり得るのか、税理士の立場から考えてみたいと思います。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症の相続人がいると、相続対策は困難を極める

日本では平均寿命が延び続けていますが、親や配偶者などが亡くなり相続が発生した際、相続人となった本人もすでにかなりの高齢者となっているケースは少なくありません。

 

例えば、そう遠くない将来に被相続人の立場になると思われる方、あるいはその配偶者や子どもといった立場の相続人が、高齢となって判断能力が低下していたり、寝たきりになっている場合は、早急な対策が必要です。

 

被相続人が認知症等を患い、意思能力がないと判断されれば、例えば不動産の売却といった手続きはもちろん、遺言書作成も行えないなど、相続対策を立てることが不可能になります。

 

また、被相続人が亡くなったときに遺言書がなければ、相続人同士の話し合いによって「遺産分割協議書」を作成する必要がありますが、相続人のなかに認知症の方がいる場合、遺産分割協議書が作成できなくなってしまいます。なぜなら、判断能力のない人が内容を理解せず署名押印しても、有効な法律行為とはならず、遺産分割協議が無効になるためです。

 

遺言書がなければ、法定相続分で相続をすることになります。すべての財産を各相続人の法定相続分で分けるため、もし不動産があるなら、その不動産も共有となります。不動産が共有となると、売却の際にすべての共有者の同意を得ることが必要です。また、共有者に次の相続が起こった場合はさらに共有者が増えて複雑化し、将来のトラブルの原因になりかねません。

 

さらに重要となるのは、亡くなった方が相続税の課税対象者である場合です。遺産分割協議書が相続税の申告期限までに作成できないときは、法定相続分で申告することになりますが、未分割の場合には相続税の各種税額軽減の特例が使えないため、多額の相続税が発生する可能性があります。

 

たとえば、配偶者が財産を相続した場合、法定相続分である1/2か、1億6000万円のいずれか大きい額までは、「配偶者の税額軽減の特例」を適用すれば相続税がかかりません。配偶者の老後資金や二次相続がそれほど遠くないであろうことなども考慮され、配偶者には大きく税額軽減の手当てがあるのですが、遺産分割が成立していないと、これを使えないのです。

 

また、亡くなった方が住んでいた自宅の居住用土地や事業で使っていた土地など、配偶者や子どもなど一定の人が相続した場合、「小規模宅地等の特例」を適用できれば、土地の評価を8割下げることができます。たとえば自宅土地が1億円である場合、8割減の2,000万円で評価することができるため、相続税額を大きく減らすことができるのですが、これも遺産分割協議が成立していないと適用できません。

 

ただし、相続税の申告期限までに「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」を提出しておけば、申告書の提出期限から3年以内に分割した場合、分割が行われた日の翌日から4ヵ月以内に「更正の請求」を行うと、「配偶者の相続税の軽減」「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」といった特例の適用を受けることができます。

 

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