すさまじい勢いで高齢化が進展する日本。それだけ多くの相続が日々発生しているといえます。しかし、そこで注意が必要なのが「認知症」の問題です。被相続人が認知症だと相続対策が立てられない恐れがあり、相続人が認知症だと遺産分割協議書が作成できず、節税を実現できる各種特例を適用できなくなる恐れがあるのです。具体的な内容とリスクについて、不動産と相続に詳しい宮路幸人税理士が解説します。

安易な成年後見制度の利用は、足かせになることも

相続人に認知症の人がいるケースでは、成年後見制度を利用し、認知症の相続人に成年後見人をつける方法があります。その場合は、家庭裁判所により、弁護士などの専門職の方に成年後見人になってもらい、遺産分割協議書を作成します。

 

ただし、それには注意すべき点があります。成年後見人はあくまでも「認知症の方の財産を守る」ことを目的として家庭裁判所に任命されています。たとえば、親の事業や親の介護などを手伝ってくれた子どもの相続分を多くすることや、二次相続を考慮して子どもの相続分を多くするといった分割は、認知症である配偶者の取り分を減らすことになるため、認められません。そのため、柔軟な遺産分割をすることがむずかしくなります。

 

また別のデメリットとして、専門職の成年後見人がついた場合、報酬が発生することがあげられます。おおよその相場は月額2万円ぐらいですが、後見人の財産によってはより多くの報酬が発生する可能性もあります。また、一度後見が開始されると基本的に亡くなるまで終わりません。

 

このため、相続人に認知症の人がいる場合は、遺言書を作成しておいたほうがよいでしょう。遺言書がある場合、基本的にはそれに基づき相続が行われます。ただし、各人の遺留分を侵害した場合、相続人から遺留分減殺請求がされることもあるため、各人の遺留分に注意し、遺言書を作成することが大切です。遺産の配分については、「なぜそのようにしたのか」という理由を、遺言書の付言事項として記載しておくと相続人に理解されやすくなります。

被相続人が認知症の場合は「ほとんど打つ手がない」

被相続人が認知症になった場合、相続税対策はほとんど打つ手がない状態となってしまいます。認知症を発症する前であれば、遺言書を書いてもらう、相続税の保険金の非課税制度を活用した保険の加入や相続人に対する生前贈与、また家族信託の活用といった対策を立てることが可能ですが、認知症になるとこれらの有効な法律行為ができなくなります。また、上記でも触れたように、不要な不動産の売却等も行うことができません。

 

このように、相続人に認知症の人がいる場合や被相続人が認知症であった場合には、相続について大きな制約を受けます。従って、認知症になる前に遺言書を書いてもらうなどの対策をとるよう、先手を打っておくことが大切でしょう。実際には、子が親に遺言書を書いてほしいとはいい出しにくいことではありますが、「最近物忘れが多くなっている」など兆候がある場合は、相続税対策を検討してみてください。

 

 

宮路 幸人
野村・多賀谷会計事務所
税理士・AFP

 

 

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