2013年に中国・習近平国家主席が提唱した「一帯一路構想(BRI)」。沿線諸国・地域の期待を集める一方、プロジェクトをめぐる衝突や債務累積の懸念による否定的評価、はては主要国から政治的野望との警戒の声があがるなど、諸外国のBRIに対する受け止め方、評価は様々だ。今回のパンデミックを受け、中国がBRIをどう展開していくのか、関係各国が注目している。本記事では、BRIの今後の展開について、不確実要因を踏まえつつ、複数の論点から考察する。本稿は筆者が個人的にまとめたものである。

東南アジア市場の重要性が強まると予想

 海上ルート偏重 

 

中国商務部によると、近年、BRI沿線諸国・地域のうち、主要投資先はシンガポール、インドネシア、ラオス、ベトナム、マレーシア、カンボジア、タイなど、海上ルートに関わる東南アジア諸国が多い(図表2)。上述したような背景から海外への資金フローが縮小する場合、選択的な戦略がとられて海上ルートが優先され、小規模プロジェクトや相対的に優先度が低いと見られている市場(中央アジア、サハラ以南のアフリカ、東欧)への投資が減少する可能性がある。

 

(出所)2018年8月29日付中国海洋在線より転載、一部筆者修正
[図表2]一帯一路の「陸上ルート」と「海上ルート」 (出所)2018年8月29日付中国海洋在線より転載、一部筆者修正

 

社会科学院傘下の亜太全球(アジア太平洋グローバル)戦略研究所が2020年8月、安全保障や外交関係の国内シンクタンクを集め「中国-東南アジア、海上シルクロード協力」と題した検討会を開催し、東南アジアにおける中米の印太(インド-太平洋)戦略上の駆け引き、印太という概念に対する東南アジア諸国の立ち位置などを検討している。

 

また発展研究中心が9月、「国際情勢が複雑化し、伝統的および非伝統的な安全保障上の脅威が高まっている状況下、我国(中国)にとって重要な資源、エネルギーといった戦略物資を輸送するルートとして海上シルクロードは海上生命線で、これを増強していくことは重要な意義がある」とする調査研究報告書を発表した。中国当局が2大シンクタンクを使って、今後の政策で海上ルート重視を強める環境作りをしていると解釈することができる。

 

他方、中国内で海上ルートの開拓で恩恵を受けるのは主として沿海部や広東省などの相対的に裕福な地域で、現状、BRIはその目的のひとつである中国内の地域格差を是正する効果を生んでいない(図表3)。新型コロナが中国内での格差を拡大させている状況下で、海上ルート偏重はそうした傾向を助長し、貴重な国内資源をなぜ海外に振り向けるのかという国内世論、相対的に開発が遅れた地域の不満を招く恐れがある。

 

(注)2013年の構想提唱時に筆者作成。当時、米国はアジア重視のオバマ政権だった。 (出所)筆者作成
[図表3]一帯一路構想提唱時の要因 (注)2013年の構想提唱時に筆者作成。当時、米国はアジア重視のオバマ政権だった。
(出所)筆者作成

 

 国際サプライチェーンと東南アジア 

 

2018年以降、中国製造企業、特に国有企業の進出先やその海外投資プロジェクトは、サプライチェーンの中で関係が強く、高い投資リターンが見込め、また民間部門が一定の発達を示している東南アジア市場での港湾、電力、工業団地に流れる傾向を強めている。上記、海上ルート偏重はそうした傾向の一環としても捉えられる。パンデミックで国際的サプライチェーンが分断されたことを目の当たりにして、中国当局もサプライチェーンを多様化・分散化することの重要性、一部の国・地域に過度に依存することのリスクを再認識したと思われるが、それだけに、中国当局にとって安定的で潜在成長力の高い東南アジア市場の重要性はむしろ強まることが予想される。

 

上述の通り、新型コロナの影響を受けている2020年も、BRI沿線職国・地域、特に東南アジア諸国への投資は堅調に増加しているが、貿易面でも同様の傾向が見られている。20年1〜9月の経済実績が発表された際、商務部は、同期間の対外貿易の特徴のひとつとして、20年累計で初めて貿易の前年比伸びがプラスに転じ、新型コロナの影響からの回復を示したが、対ASEAN貿易が大きく伸び(7.7%)、ASEANがEUを抜いて最大の貿易パートナーとなったこと(シェア14.6%)、またBRI沿線諸国との貿易の伸び(1.5%)も対外貿易全体の伸び(0.7%)を上回ったことを強調している。
 

 

次回の最終回記事では「医療分野の需要増と民間部門の役割拡大」「債務返済問題」「外交政策的観点」について詳述する。

 

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