2013年に中国・習近平国家主席が提唱した「一帯一路構想(BRI)」。沿線諸国・地域の期待を集める一方、プロジェクトをめぐる衝突や債務累積の懸念による否定的評価、はては主要国から政治的野望との警戒の声があがるなど、諸外国のBRIに対する受け止め方、評価は様々だ。今回のパンデミックを受け、中国がBRIをどう展開していくのか、関係各国が注目している。交錯する経済要因と政治外交要因から中国の戦略を考察する。本稿は筆者が個人的にまとめたものである。

一帯一路構想ルートをなぞる、新型コロナの感染経路

2020年初以来、中国武漢から世界各国に感染が拡大(パンデミック)した新型コロナウイルスの当初の感染経路は、こともあろうに、一帯一路構想(Belt and Road Initiative、BRI)ルートそのもので、今や一帯一路は「一帯疫路」になった(「一路」と「疫路」の中国語の発音は似ている。図表1参照)、あるいは一帯一路自体がウイルスだと揶揄(やゆ)する声が中国本土外の華字誌上で流れた。

 

(注)「ウイルスは一帯一路に沿って密かに欧州・アジアに伝染している」との文章とともに、反中の色彩が強い海外華字誌各誌が2020年3月に掲載した。
[図表1]「一帯疫路」? (注)「ウイルスは一帯一路に沿って密かに欧州・アジアに伝染している」との文章とともに、反中の色彩が強い海外華字誌各誌が2020年3月に掲載した。

 

他方で、パンデミックを奇貨として、一帯一路は感染が深刻で医療体制が脆弱な国・地域との協力を強化する「健康シルクロード」になると期待する声も中国内外で聞こえる。

 

習近平国家主席が2013年にBRIを提唱した後(『[連載]一帯一路――シルクロード・ルネサンスにかける中国の狙い』『[連載]対外援助を通して見る中国外交――中所得経済大国としての「戦略」』参照)、沿線諸国・地域から大きな期待が寄せられる一方、プロジェクトをめぐる相手先との様々な衝突や債務累積を懸念する一部海外からの否定的評価、米国を初めとする主要国の「BRIは中国の政治的野望だ」と警戒する声が交錯する中、パンデミックという事態を受け、中国が今後BRIをどのように展開していくのか、関係各国が注目している。

当局の考えや方針が垣間見える「4つの会議」

新型コロナのパンデミックが発生した2020年第一四半期以降、中国当局のBRIに対する考え方や方針を見る手がかりとして、次のような会議がある。

 

●全国人民代表大会(全人代)

●BRIの重要沿線地域のひとつであるアフリカ諸国との中ア団結抗疫(感染防止)特別サミット

●沿線諸国25ヵ国の外相レベル参加者、WHOやUNDPの事務局長らを招いて中国が主催したBRI国際協力ハイレベルTV会議

●アジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会

 

【全人代】…5月中旬 

 

李克強首相が全人代で行った政府工作(活動)報告は、「質の高い対外開放をさらに推進し、外国貿易・投資を支える良好なファンダメンタルズを維持する」との項目の中で、「質の高いBRIを共に建設、共にビジネスを行い、共に利益を享受する(共商共建共享)原則を堅持し、市場原則と国際慣行・規則を遵守。企業が主体的役割を発揮。互恵的協力を推進し、対外投資の健全な発展を誘導する」と、これまで中国当局がBRIに関して様々な機会で言及している方針を簡潔に繰り返しただけだった。

 

ただ、本年は全人代自体が新型コロナの影響で大幅に延期され、短期間の簡素化された開催となり、政府工作報告も例年の1.5万〜2万字、演説時間2時間の長さから、本年は改革開放以降40年の間で最も短い9500字、1時間の演説だった。そのため、BRIへの言及も簡略化されたことは当然で、中国政府としては、まずはBRIを推進する方針が変わっていないことを発信すればよいとの判断だったと思われる。

 

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