社員の意識革命を起こす「環境整備」の重要性
工場の玄関に着いた瞬間、「帰る!」
「環境整備」については、伝説がいくつも残っている。
『一倉定の社長学全集』でも、講義の中でも、環境整備の重要さを「社員に意識革命を起こす」とまで紹介されるが、最初は多くの社長はそこまで実感していない。
業績の低迷で苦しんでいるときは皆、先生に「即効薬」を求めているからなおさらである。飲食チェーン経営の社長も店舗視察に先生をお連れして、販促・集客法の相談をしようとしたが、店内のゴミ箱を見た瞬間「カミナリ」だった。さすがにそのときは同席していなかったが、社長がそのときに、続けて商売の相談を切り出したから、ここでは書けないような大変な状態を招いたのである。
また、K社長は長年勉強し、やっと工場を見ていただこうと遠路、先生を招いた。車で本社工場に着いて玄関のドアを開けようとした瞬間、
「なんだ! このガラスの汚れは! これでは工場を見るまでもない」と言って、本当に東京へ戻ってしまった。
先生が個別指導で地方に1日がかりで行くのには相応の費用がかかるのだが、10分で帰ると言われては正直たまらない。しかし、この両社長とも「目が覚めた!」と言われ、自分が勝手に考えていた「ピカピカ基準」と「先生のピカピカの徹底基準」がこんなにも違っていたと述懐されている。
今では地元の超人気店で連日満席、店舗数もゆっくりではあるが着実に伸ばしている。
個別相談に臨む社長へ先輩社長からのアドバイス
自分の会社に先生を招き一対一で指導を受ける方々はベテラン社長がほとんどで、何回か怒られ要領を得ているが、はじめての社長は先に述べたような体験を誰もがしている。そのため予行演習をやるわけではないが、公開講座の1日目の夕方と経営計画作成合宿の期間中は「社長と先生一対一の個別相談」があるのだが、はじめての場合は相談の列に並ぶのにも勇気が要る。皆の噂も聞いているし、講義会場の雰囲気もピリピリである。
先輩社長は怒られ慣れてもいるので、緊張してつい愚痴や言い訳的なことは言わない。
質問も的確であるが、はじめての社長が内部管理や社員への不平など口にしようものなら、次の社長が相談にならなくなるので、「経営上、解決しなければならない問題」と「自分なりに考えた対策を1~2案示し、これで良いか? 他に注意するところはないか?」という視点で指導を受けるように助言するのである。
他山の石ではないが、貪欲な社長はあらゆる機会を捉え、後輩の社長の困りごとを聴くことさえも自らの勉強にしてしまう。そうして互いに打ち解け、仲間を増やし知恵を共有し合い、切磋琢磨して経営力をつけていくのである。
相談する社長も安易に人に解決策を聞くと、そのときは助かるが自ら考え尽くす力を失ってしまう。最後には「教えてくれ」「紹介してくれ」など、常に「アレくれ、コレくれ」のくれくれ族になり、社長仲間も皆離れていってしまう。